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ドーピング違反で考えた「死」 身に覚えのない不正、五輪を絶たれても…今、生きてスポーツをする理由――競泳・古賀淳也

スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

2009年ローマ世界水泳で金メダルを獲得した古賀淳也さん【写真:Getty Images】
2009年ローマ世界水泳で金メダルを獲得した古賀淳也さん【写真:Getty Images】

「シン・オリンピックのミカタ」#31 連載「なぜ、人はスポーツをするのか」第1回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

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 今回は連載「なぜ、人はスポーツをするのか」。現役アスリートやOB・OG、指導者、学者などが登場し、なぜスポーツは社会に必要なのか、スポーツは人をどう幸せにするのか、根源的価値を問う。第1回は2009年ローマ世界水泳の男子100メートル背泳ぎ金メダリスト・古賀淳也さん。身に覚えのないドーピング違反の通知を受け、2年間の資格停止に。不条理を味わった37歳の考えとは。(取材・文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 ◇ ◇ ◇

 2018年4月23日の午後9時過ぎ、1本のメールで人生が大きく変わりました。

 検査機関から届いたドーピング違反の通知です。あり得ない、最初にそう思いました。不正をしてまで競技をやりたいと思わない。陽性なら4年間の資格停止。当時30歳です。ずっと日本代表にいてアンチドーピングの講習も受けてきたし、実際に違反した選手に対して「あまりにも馬鹿げている」と思うくらい、凄く嫌悪感を持っていました。

 まさか自分がそうなるとは全く思っていない。だから、通知を受け止めきれず、パニックになりました。自分が人に向けた嫌悪感がそのまま全て跳ね返ってくる。何で? いつどこで? どの検査で? 今後どうなるの? とにかく不安。部屋中をひっくり返して検査表を探しました。あとで気づいたのは、検査表はメールでしかもらっていないということ。それくらい冷静になれませんでした。

 その年は派遣標準記録を切り、日本代表に入っていました。予定したアジア大会も確実に4連覇し、ベストタイムを出せると思うくらい調子がいい。東京五輪も100メートル背泳ぎで出場する強い決意がありました。タイムも伸びていましたが、検査に引っかかった何かが影響していたのか、それはないと思っています。

 本当に気をつけていたし、不正をしないのはスポーツを楽しむための根底にある。それが当たり前。だから、メールの内容を受け止めきれない。情報が表に出てしまったら広まるのは一瞬。どこかから漏れるかもしれない。

 外に出ても、見られているんじゃないか、誰かが知っているんじゃないかと思ってしまう。ご飯も食べられず、絶食に近い状態。朝起きて、テレビをつけて、ソファーに座って、気づいたら夕方になっている。そうしたら、すぐ近くにベランダがありました。

 死がすぐ隣にあった。ベランダを飛び越えれば楽になるのかなって。

 もちろん怖い。カーテンを閉めて見ないようにしました。シンプルだけど、少しでも遠ざけられるように。当時、お付き合いをしていた女性が会社に行って帰ってきても、僕は朝いた場所から全く動いていない。「散歩に行こう」と連れ出してくれました。でも、家から1、2分のところで「もう帰る」と言う。泣きながら歩き、少しずつ歩ける距離を伸ばしていきました。

「一人でいるのはよくない」とマネージャーさんの家に呼んでもらい、一緒にいてくれました。通知から3、4日後、「うどんでも食べに行こう」と言われ、それが最初に口にした食事。全く動けない状態が3週間ほど続き、10キロくらい痩せました。

 競技の調子が良かったので、「先のことを諦めなきゃいけない」というのが強く思ったこと。悔しいし、諦めたくない。感情の処理が全くできないけど、いずれは発表しなきゃいけない。でも、今まで嫌悪感を抱いていた自分の言葉がそのまま全て返ってくる。それをどうやって受け止めたらいいんだろうかと。

 結局、水泳を諦めました。

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