阿部兄妹の入れ替わった明暗 兄の示した屈辱からの這い上がり方、妹は試練を越えるか
東京五輪代表選考会の一つとなっている柔道グランドスラム(GS)大阪大会の第1日が22日、丸善インテックアリーナ大阪で行われ、男子66キロ級は17、18年世界選手権連覇の阿部一二三(日体大)が、決勝で丸山城志郎(ミキハウス)を7分27秒の激闘の末に技ありで破り、2大会ぶりの優勝を果たした。東京五輪出場争いの正念場で優勝。女子52キロ級世界女王の妹・詩(日体大)は優勝なら代表内定の可能性が高かったが、銀メダルに終わり、兄妹で明暗が分かれた。
涙と笑顔、3か月前の世界選手権と真逆の光景、復活の兄・一二三「絶対に引かない」
東京五輪代表選考会の一つとなっている柔道グランドスラム(GS)大阪大会の第1日が22日、丸善インテックアリーナ大阪で行われ、男子66キロ級は17、18年世界選手権連覇の阿部一二三(日体大)が、決勝で丸山城志郎(ミキハウス)を7分27秒の激闘の末に技ありで破り、2大会ぶりの優勝を果たした。東京五輪出場争いの正念場で優勝。女子52キロ級世界女王の妹・詩(日体大)は優勝なら代表内定の可能性が高かったが、銀メダルに終わり、兄妹で明暗が分かれた。
負けない。負けられない。負けたくない。一二三は、4歳年上の宿敵に気持ちをぶつけた。丸山との火を噴くような熱い激闘。声をからす観衆の熱気が畳を覆い、審判の「待て」の声は両者の耳に入らない。ゴールデンスコア方式の延長戦に突入し、迎えた7分27秒だった。一瞬の間ができた刹那、阿部が支釣込足で技あり。対丸山の連敗を3で止めるとともに、昨年世界選手権以来の優勝で東京五輪金メダルの夢への望みをつないだ。
「今年一年、苦しい思いもしたし、悔しい思いもした。絶対に引かないという思い。ぜっったいに何が何でもやってやるっていう気持ちで臨みました。だから、一瞬の隙というか、気を緩める部分は一切なかった。常に前に出る柔道ができたと思います」
試合後の取材。「ぜ」に力を込めながら、何度も「絶対に」という言葉を繰り返した。言葉で表現しきれない思いを強調する。負け続けた日々の悔しさをにじませていた。
畳の上で茫然とする丸山。一方、蘇った若き期待の星は大声援に向かってガッツポーズをつくった。「たくさんの人が悔しい思いをして、苦しい思いをして、それでも応援してくれて。苦しかったのは僕だけじゃない。やっとほんの少し恩返しできたのかな」。8月の世界選手権を制した丸山が優勝すれば、一二三の出場は厳しくなる崖っぷち。正念場でライバルの内定を阻止する復活Vを飾った。
相手は“天敵”だった。昨年のGS大阪は決勝で丸山と対戦し、国内では約2年ぶりの敗戦。今年4月の全日本選抜体重別選手権でも丸山に連敗。2連覇中だった8月の世界選手権も準決勝で負けた。3連覇を逃した瞬間、あの日見上げた天井の光景は忘れない。幼少期から培ったものを思い返した。
「ふと、自分自身の柔道ってなんだろうって考えてみると、やっぱり前に出る柔道。一本を取りに行く柔道かなっていうふうに思ったので、それをやめてしまうと自分の良さがなくなってしまう」
負けた映像を見返した。後ろに引く自分が情けなく映る。隙を突かれて負けた。同じ相手に屈辱の3連敗。「リオ五輪が終わって、僕が積み上げてきたものは世界選手権2連覇したこと。調子が悪くなってだめになったけど、自分自身積み上げてきたものは、ぜっったいにそう簡単に崩させてはいけない」。技術を見直し、全てを成長させるように汗を流した。周囲にも相談。多くの意見をもらい、身も心も鍛え直すきっかけとなった。