井上尚弥、“捨てた”中盤に光るクレバーさ ドネアの強さ引き出した上で勝つ凄み
ボクシングのワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のバンタム決勝が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBA・IBF王者の井上尚弥(大橋)がWBAスーパー王者ノニト・ドネア(フィリピン)に判定勝ち。「世代交代」を宣言したバンタム級頂上決戦を制し、WBSS優勝を果たした。右目の瞼の上を切り、流血というアクシデントに見舞われながらの勝利。3年ぶりの判定勝ちとなったが、井上のまた別の凄さが際立った頂上決戦となった。
アクシデントに慌てずプランを修正、井上の光るクレバーさ
ボクシングのワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)のバンタム決勝が7日、さいたまスーパーアリーナで行われ、WBA・IBF王者の井上尚弥(大橋)がWBAスーパー王者ノニト・ドネア(フィリピン)に判定勝ち。「世代交代」を宣言したバンタム級頂上決戦を制し、WBSS優勝を果たした。右目の瞼の上を切り、流血というアクシデントに見舞われながらの勝利。3年ぶりの判定勝ちとなったが、井上のまた別の凄さが際立った頂上決戦となった。
はっきりと5階級王者に苦戦した。いきなり相手をぐらつかせた第1ラウンドだが、ここに意外な罠があった。「出だしの手応えが良すぎた。ブロッキングでなんとかなると。でもフェイントからの左フックをもらって全てが狂いましたね」。好調が逆に誤算になった。
第2ラウンド、ドネアの左フックを被弾し右目をカットした。流血するのは初めて。自身のキャリア最大ともいえるビッグマッチでのアクシデントに、慌てても当然の場面だったが、井上は決して焦らなかった。ここに井上のすごみがあった。
「正直、2ラウンドからドネアが2人に見えました」とリング上で振り返り、さらに試合後の控室では「ずっと視界がぼやけていた。精神面も含めて今日はいい経験になりましたね」と言った。
右目の視界が効かない中で、対峙するのは左のフックをキラーブローにもつドネア。自身の右に、待ってましたとばかりに左を合わせられるシーンは容易に想像できる。窮地だが、これで逆に井上は考え方をクリアにした。
「右目が見えないイコール、右ストレートを不用意に打てない。左フックを合わせられるので、それ(ポイントアウト)しか選択肢がなかった」
過去3戦、チャンピオン経験者をわずか441秒で葬ってきた井上。だが、この試合はKOへの誘惑を断ち切り、ポイントでの勝利へと切り替えた。ガードを高くし、相手に有効打は許さない。4回には鼻からも出血した。ここぞとばかりに圧力をかけ前進してくるドネア。だが、井上は雑にはならない。「狙ってましたね。だから不用意にいかなかった」と、ドネアの左だけはしっかりとケアした。
耐久力も証明「打たれ強さは証明できた。それはそれで良かった」
中盤のラウンドはじっと我慢し耐えた。「自分の中で、セコンドの中で、そこまでのラウンドでポイントは取っているだろうという計算があった。7、8回は捨てるラウンドにして、そのあとのラウンドでしっかり(ポイントを)とろうと」。9回にはドネアの右をもらい、はっきりと効かされた。今まで見たことのないクリンチで逃げる場面もあった。
それでも10回には再びギアを上げ、相手のガードの上からでも手数を出した。しっかりと、はっきりとポイントを取りに行った。11回には左のボディを直撃させ、ドネアがこらえきれずダウン。この時点で勝負はあった。12回も終始攻め続けた。7~9回はドネアに取られたが、10~12ラウンドはジャッジ3人が井上につけた。結果、3-0の判定勝ち。想定通り。クレバーに、ポイント勝ちする姿からは大人のすごみがあった。
「耐久性、打たれ強さは証明できた。それはそれで良かったですね。ドネアの絶対に負けないという気持ちも感じた。これ以上いけないという警戒もしてたし」
12ラウンド戦うのは2016年5月8日のデビッド・カルモナ(メキシコ)戦以来。以降はほとんどの試合で早い回に仕留めてきただけに、長いラウンドを戦っての耐久性に関しては一抹の不安があったが、それも払拭した。
考えうる最悪の展開もクリアした井上。「ドネア選手と、WBSS決勝を戦えたことはキャリアで1番の経験だと思っています。こういう結果が出せて自分自身良かったと思う」と試合後は相手を称えた。ドネアは確かに強かった。だが、そんな強い相手に対して、試合中にプランを修正し遂行しきった若き統一王者の凄みもまた際立った。
(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)