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日本とサウジの番狂わせに見たW杯の魔力 会場を包んだ「やられ役」アジア勢の反骨心

アジア勢の躍進を後押しした3つの要因

 まず考えられるのが、開催時期のタイミングである。これまでのW杯は、6月から7月の夏(南半球では冬)に開催されてきた。つまりヨーロッパのシーズンが終わったタイミングで、どの代表チームもW杯モードに入っていく。ところが今回は史上初めて、シーズン途中での本大会突入となった。

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 こうしたハードな日程により、大会直前での怪我人続出が問題となった。しかし、より深刻な問題となったのが、代表チームの準備が遅れたことだ。ブンデスリーガは、開幕1週間前の11月13日まで行われたため、ドイツ代表がカタール入りしたのは4日後の17日。日本代表もドイツでプレーしている選手は多いが、初戦に向けた準備では1週間のアドバンテージがあった。この違いが、両者の対戦に少なからぬ影響を与えたことは間違いないだろう。

 次に地理的なアドバンテージ。今大会は「中東初のW杯」として語られることが多いが、それ以前に「2002年以来となるアジア開催」であることは銘記すべきである。実際、20年前の日韓大会で日本はベスト16、韓国はベスト4に進出。逆に連覇が期待されていたフランスや、優勝候補の筆頭に挙げられていたアルゼンチンは、まさかのグループリーグ敗退となった。

 今大会に関して言えば、サウジアラビアはカタールと国境を接しているため、ルサイル・スタジアムを「ホーム状態」にすることに成功した。一方、日本がドイツと戦ったハリーファ国際スタジアムは、2011年のアジアカップで日本がトロフィーを掲げた場所。当時の代表メンバーのうち、川島永嗣、権田修一、長友佑都、吉田麻也は今大会でも名を連ねている。良い思い出しかないピッチでドイツを迎え撃つ日本代表に、過度のプレッシャーはなかったはずだ。

 以上2点は別の原稿でも指摘したことだが、もう1つ挙げておきたいのが「UEFAネーションズリーグの弊害」である。2018年からスタートしたこの大会は、欧州の中小国の底上げには貢献したものの、逆に欧州55か国の「内輪」マッチメークばかりとなってしまった。コンフェデレーションズカップもなくなった今、ぶっつけ本番で異文化のサッカーと向き合うことは、とりわけドイツにとって想定以上のハードルになった可能性が考えられる。

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宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追う取材活動を展開する。W杯取材は98年フランス大会から継続中。2009年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞した『フットボールの犬 欧羅巴1999-2009』(東邦出版)のほか、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』(カンゼン)、『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)など著書多数。17年から『宇都宮徹壱WM(ウェブマガジン)』を配信している。

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