寺地拳四朗が「変貌」を遂げるまで 最強時代を一新する葛藤、決意、そして涙の王座奪還
試合前は報道陣にも“嘘”をついた「情報戦です」
つくり上げるのに要した期間は、たった2か月だった。本格的に練習を再開した年明けから着手。だが、最初からハマったわけじゃない。「3か月ブランクがあったので、最初は素人みたいな動きだった」と加藤トレーナー。ガードする癖がなかったため、慣れるのに手こずった。
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父の永(ひさし)会長も「スパーリングを見たらパンチをもらっていて、大丈夫かなと思っていた」と心配になるほど。それでも、「2人が決めたことなので悔いはないだろうなと。強くなるために進化が必要」と任せた。
寺地自身も少なからず葛藤があった。長年築き上げ、世界で無敵を誇った最強のスタイルだったからだ。「不安はありましたよ。スパーリングで出来ても試合は違うし。でも、後悔しないようにやるだけだった」。挑戦を決意した。少し変えては助言をもらい、微修正する繰り返し。2月中に完成させ、加藤トレーナーは「言ったことを体現できるのはさすが」と労った。
しかし、試合前は過去のスタイルで行くことを報道陣に宣言。新王者は「あれは心の中で『すみません』と思いながら言ってました(笑)。情報戦です。僕も質問にあまり答えず、『加藤さんに聞いてください』みたいな感じで」と、おどけた。
178日ぶりのダイレクトリマッチ(直接の再戦)。前回は陣営が矢吹による「故意のバッティング」を主張し、物議を呼んだ。地元・京都で奪い返したWBCのベルト。矢吹と抱擁を交わし、告げた。「強くさせてくれて、ありがとうございました」。リングの上から、矢吹ファンが陣取った客席にも頭を下げた。
「本当に辞めんくてよかったと思うし、加藤さんを信じてスタイルを変えてよかったし、負けても離れずに応援してくれた人に『ありがとうございます』という感じです。やっていてよかった」
王座を失った期間、仲の良い知人は未だに「チャンピオン」と言ってくれた。でも、その言葉が気になった。「ああ、チャンピオンじゃなくなったんやな」。悔しさが湧いた。だから、再起した。抱きしめたベルトに「おかえり」とポツリ。「これからはチャンピオンって言える」。最強だったスタイルに新たな引き出しが加わった。就いた2度目の王座はもう、簡単に揺らぐことはない。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)