「ここから飛び降りたら楽に…」 かつて心を壊した大山加奈の告白とメンタルヘルス問題【THE ANSWER Best of 2021】
メンタルヘルス問題で願う社会の変化「アスリートも一人の人間として」
現在は体罰や勝利至上主義といったスポーツ界の問題に取り組み、全国でバレーボール教室や講演を行ってきた大山さん。2月に出産した双子を元気に育てる姿からは、想像できないエピソードだ。
しかし、すべて現実の過去である。
大坂のように個人競技であっても、大山さんのように団体競技であっても心の問題は存在する。理由はメディアの対応が苦手だったり、競い合いが苦手だったり、一つではない。かつては五輪史上最多金メダル23個を獲得した競泳のマイケル・フェルプス(豪州)、サッカーの元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタら、少なくないトップアスリートが「うつ」を告白している。
国立精神・神経医療研究センターが、日本のラグビートップリーグの選手251人にメンタルヘルスの実態調査を行った結果、「うつ」を含め、およそ42%がなんらかの不調を経験したというデータもある。
「人それぞれに心が疲弊する理由があるのは、会社や学校でもきっと同じではないでしょうか」と大山さん。だから、スポーツ界も理解が進むことを願い、「『アスリートだから』という見方を強くしないであげて欲しい」と声を上げる。
「今は『男だから』『女だから』という偏見をなくし、個人が尊重される時代。アスリートも一人の人間として見てあげること。本人が『アスリートだから強くなきゃいけない』と思うこと、周りに『アスリートだから強いでしょ』と縛られるのは本当に苦しいので」
最近、大山さんが「素晴らしいと思った」というのは、日本ラグビー選手会が昨年立ち上げた「よわいはつよい」プロジェクト。アスリートが率先し、オープンに心の不調と向き合うことで当たり前にメンタルヘルスと付き合っていける社会を目指した啓蒙活動を行っている。
「それこそラグビー選手は強い人がする競技と思われる。でも、決してそうじゃないという発信に救われるアスリートもいる。弱さを見せるのは勇気がいることだけど、蓋をせず表に出してもいい。きっと楽になるから。弱いことは悪いことじゃないと知ってほしいです」
振り返ると「正直、私も心が折れて引退した」という。晩年は腰の怪我との闘い。復活の舞台裏を捉えようと密着したテレビ取材は「チームが引き受けた仕事」と受け入れたが、耐えきれず、涙して断った日もある。
まだ26歳。リハビリに取り組めばもう一度、復帰できたと感じている。それを遮ったのは「もう、頑張れない」という心の声。心の健康を保つことは、アスリートの競技寿命を考える上でも大きな意味のあることだ。
「心が疲れてしまったアスリートの相談できる場所がまだまだ少ないと感じています。大坂選手のような影響力の大きい選手が発信してくれたことで変わるきっかけになる。きっと今まで心の問題で潰れてしまった選手も多かったと思います。大好きな競技を健康的に大好きなまま続けてもらいたい。私自身も目を逸らさず、できることをやっていかなければいけないと思っています」
アスリートも一人の人間。その理解から、第一歩は始まる。
■大山加奈/THE ANSWERスペシャリスト
1984年生まれ、東京都出身。小2からバレーボールを始める。成徳学園(現下北沢成徳)中・高を含め、小・中・高すべてで日本一を達成。高3は主将としてインターハイ、国体、春高バレーの3冠を達成した。01年に日本代表初選出され、02年に代表デビュー。卒業後は東レ・アローズに入団し、03年ワールドカップ(W杯)で「パワフルカナ」の愛称がつき、栗原恵との「メグカナ」で人気を集めた。04年アテネ五輪出場後は持病の腰痛で休養と復帰を繰り返し、10年に引退。15年に一般男性と結婚し、今年2月に双子を出産した。
(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)