元甲子園球児経営者の“野球部就活論” 伝統ゆえに欠ける「常識を疑う力」への警鐘【THE ANSWER Best of 2021】
野球部に欠けがちなのは「常識を疑う力」
――慶大準硬式野球部時代は、2年春からマネジメントを専任し、27年ぶりのリーグ優勝、57年ぶりの全日本大会出場なども経験されています。
「早大、明大、法大などは準硬式野球部にも野球推薦があり、相手校のメンバー表を見たら『甲子園経験者がたくさんいるぞ……』ということもありました(笑)。他大との明確な差は 入部選手の質でした。部の運営責任は毎年4年生が主体となって、マネジメント初心者のままプレー以外のことに気を取られ、気付いたら引退するという流れが続いていました。それらを専任のスタッフとして最終学年になる前からやった方が、組織力が高まるだろうと考えました。だから『僕がやります』と。4年生になってからマネジメントを行うのでは遅い。主将がプレーしながら采配するのではなく、今からそういう力を付けますということで2年生からやらせてもらい、部の歴史を塗り替えることができました」
――監督と経営者はリンクする部分があるのですね。
「凄くしていますね。監督と経営者に共通することで、一番大事なのは採用です。育成ノウハウや、活躍できる環境設定もあるけれど、誰を採るかでチームの色が一気に変わります。全国屈指の強豪である大阪桐蔭高の西谷浩一監督も採用に一番力を割いていると聞きます。もちろん他にも大事な仕事はあるけれど、チームの結果を変えるのは採用だなと」
――福山さんの当時の経験が書籍化されて、今も選手たちの部室に置かれているんですよね。将来はその経験をビジネスに活かそうという考えは、その頃からあったのでしょうか。
「それが、この先自分ができる野球に対する恩返しだと思いました。当時の本音は自分が選手として活躍して『最多勝です、イエイ!』とやりたかった。しかし、選手としての限界を感じてしまいました。せっかく10年以上続けてきた野球で培った力を、どう昇華するべきか考えました。1つの答えとして、当時はチームに還元しようと思いました。そしてその先に自分自身がその体験を抽象化して、別のフィールドで活躍することだと決めました。
NPBも現役時代に結果を出した人でないと、なかなか監督やコーチにはなれない。正直、それはそういうものだと思います。結局、結果を出した人の方が、説得力がある。ビジネスも一緒で、いくらマネジメントの研究やMBAを取得している人がいても、ビジネスで圧倒的な結果を出した人の方が、納得感がある。自分自身が、ビジネスで結果を出して『でも、そのベースは野球だからね』と伝えることが僕の使命だと思っています」
――ここまで野球部がビジネスで長けている点を教えてもらいました。逆に、野球部に欠けていることが多いと感じる点はありますか?
「常識を疑う力です。例えば、グラウンドに挨拶する、先輩の言うことは絶対、などは日本の野球部のある意味、伝統です。『なんでこうなんだっけ。そもそもこれって代えられないの?』というイノベーション志向が少し欠けている傾向があり、良くも悪くも先輩の言うことを聞き過ぎます。
ラクロスなどの新興スポーツ・マイナースポーツ系出身者の方がその感度が高い。自分の競技をどう説明したら伝わるかを一生懸命考える人が多いし、先輩がいないので、新しいルールを作ってしまう柔軟性と気概がある。
野球部も今は変わりつつありますけど『野球部=丸刈り』というしきたりがまだまだある。ビジネスにおいても、ITやインターネットの世界はイノベーション思考が求められることが多いので『そもそもこれって無駄だよね』という考え方が少し足りないと感じます」