ゴルフ界でママ選手が「当たり前」になるには 2児の母・北田瑠衣が語る両立の難しさ【THE ANSWER Best of 2021】
30代選手が答えた出産後の復帰「もう難しいと思う」
若い時の出産なら比較的早く筋力などを戻しやすい。もっと早く産んでいれば、ママゴルファーとして活躍できたかもしれない。しかし、北田は「両立することすら考えられなかった」と20代の自分を振り返る。「現役続行or出産して引退」という二者択一の価値観だった。
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「プロで成績も出るようになり、結婚はしたけど、自分の中ではなかなか決断できなかった。それはやはり産後の大変さがあったから。もしも日本ツアーの環境が整っていたら早い時に産んでいたかもしれないですね」
現状、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)では出産する選手を支えるため、「産休制度」が設けられている。ツアー出場には、賞金ランク上位選手に通年で与えられる「賞金シード」や「前年優勝者」などの資格が必要。だが、成績を残せなければ資格を喪失してしまう。
そんな中、「賞金シード」「前年優勝者」の選手が申請した場合、出産日から起算して36か月の経過を限度として産休が認められ、産休前の出場資格で復帰できる。若林も18年に産休を取得し、20年にツアーに復帰した。
ただ、現在のシステムでは復帰しやすい環境とは言い切れない。北田は結婚した30代のシード選手に「子どもがほしいけど、どうしたらいいか」と相談されたことがあるという。「仮に出産して、その後ツアーに復帰するの?」と聞くと、「もう難しいと思う」という返答だった。
「私はその時に『それだったらあと1、2年頑張って、しっかり稼げるとこまで稼いだら?』と伝えました。これが若い子で、ツアーにも復帰したいのあれば、家族のサポートなど全ての態勢を整えてから考えた方いいねと言いますね」
復帰のハードルを下げるには、賞金シードのボーダーラインを落とすのも選択肢だという。出場者が増えれば大会開催の負担も増えるが、賞金総額が上がっていることを考えると、その分を充ててもいい。
「シード選手は入れ替わりが激しいので、『今は妊娠できない』と出産の決断をしにくい環境でもあります。シード権の順位を今の賞金ランク50位から65位くらいまで下げてもいいんじゃないかと思います。プロになるのも狭き門ですが、シード選手になるのも狭き門。それを維持するのも本当に大変。ハードルが下がれば、『やっぱり早いときに子どもを産みたい』という選手が出てくるかもしれない」
年々レベルが上がる女子ツアー。次々と若手が台頭するだけに、長く活躍することがより難しくなっていく。現役と出産の両方を選ぶことへのハードルは、なおさら高い。
では、どんな環境になれば両立させやすくなるのか。よく耳にするのは、ツアー会場の「託児所」の設置。米女子ツアーでは当たり前のように置かれているが、国内ツアーでは進んでいない。後編では北田にその理由、出産後も現役を続けたい女子ゴルファーへの願いなどを語ってもらった。
(後編は25日を予定)
■北田瑠衣/THE ANSWERスペシャリスト
1981年12月25日生まれ、福岡市出身。10歳でゴルフを始め、福岡・沖学園高時代にナショナルチーム入り。2002年プロテストで一発合格し、03年にプロデビュー。04年はニチレイカップワールドレディスでツアー初優勝し、年間3勝で賞金ランク3位。05年には宮里藍さんとペアを組んだ第1回女子W杯(南アフリカ)で初代女王に。06年から10年連続でシード権を保持した。男女ツアーで活躍する佐藤賢和キャディーと17年に結婚し、2児のママとして子育てに奮闘中。
(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)