空手・清水希容が追求した形の真髄 「スポーツなのか」という人にも伝える究極の4分間【THE ANSWER Best of 2021】
東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。「THE ANSWER」は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが、その中から特に反響を集めた人気コンテンツを厳選。「THE ANSWER the Best Stories of 2021」と題し、改めて掲載する。今回は8月の東京五輪で銀メダルを獲得した空手女子形の清水希容(ミキハウス)の記者コラム。新種目として採用されたが、24年パリ五輪では実施されない空手。魅力を伝える唯一の絶好機に27歳の第一人者が戦い抜いた。背景には「よくわからない」という人にも知ってほしい形の真髄があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
「THE ANSWER the Best Stories of 2021」8月、東京五輪銀メダル獲得後の記者クラム
東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。「THE ANSWER」は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが、その中から特に反響を集めた人気コンテンツを厳選。「THE ANSWER the Best Stories of 2021」と題し、改めて掲載する。今回は8月の東京五輪で銀メダルを獲得した空手女子形の清水希容(ミキハウス)の記者コラム。新種目として採用されたが、24年パリ五輪では実施されない空手。魅力を伝える唯一の絶好機に27歳の第一人者が戦い抜いた。背景には「よくわからない」という人にも知ってほしい形の真髄があった。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)
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空手の形ってよくわからない。そもそもスポーツなの?
そんな声が耳に入らないはずがない。清水は形の魅力を伝えるために奔走してきた。
「私が大事にしているのは、人にどれだけ伝えるか、人の心にどれだけ残すか。勝ち負けのために形をやってないので、私」
金メダル候補として伝えられる形の魅力とは。こんな問いの答えだった。
目の前に敵がいることを想定し、突きや蹴りなどを激しく繰り出す。立ち方、技、正確な呼吸法などの評価基準により採点。しかし、素人にはわかりづらい。
2度世界女王に輝いた清水はこう説いた。
「形って粘土みたいなものだと思います。いろいろな人生経験を積み上げていくもの。スピード、勢い、気持ちの強さを見てもらいたい。あとは、繋がってほしい。ただ単に私一人が演武をするだけでは作り得ないんです。見ている人たちの力を借りて一つの形を作り出す。芸術のようなもの。会場の空気など全てが一致した時に最高の演武ができる。いろいろなものと繋がって演武をする。それが私の最終的な理想です」
人生経験からくる“厚み”が映し出される。それが形の真髄である。東京五輪は27年間の人生全てをぶつける舞台だった。
兄の影響で小学3年から競技を始め「空手、楽しい!」と熱中した。初めて出た中学の全国大会は3位に「悔しい」。その後も「呪われているんじゃないか」と嘆くほど全国3位が続いた。東大阪大敬愛高3年の2011年高校総体で初の日本一。「1位になれた嬉しさと、チャレンジしていく楽しさを知った」と頂点を追い求めるやりがいに巡り合った。
日本代表になったが、空手が五輪種目になるなんて夢にも思わなかった。「五輪は遠い世界。手の届かない舞台でしかなかった」。16年8月に追加種目として正式決定。目の色を変えた海外勢は一斉に強化に着手した。「比べものにならないくらい底上げされている」。世界の実力は飛躍的に上がった。
「オリンピック、目指すよね?」。日本代表になってから当たり前のように聞かれたが、五輪を目指すつもりはなかった。「簡単な道のりじゃないので」。考えを180度変えられたのは、引退を頭に置いて臨んだ社会人1年目の世界選手権(16年10月)。決勝で審判5人の旗が全て自分に上がり、優勝が決まった。海外の歓声を受けながら目に映った世界一の景色。「あ、行こう」。東京五輪挑戦を決意した。
「私、世界の舞台が好きだなと。決勝を戦えるのは世界で2人だけ。誰もが立てる場所じゃないし、嬉しさは爆発的なもの。あの舞台が病みつきになって、やっぱりやめられなかった」