嫌なことも頑張れる子は伸びる 神野大地と考える「努力」という言葉の本当の意味
神野が青学大・原監督から教わった「半歩先の目標」の立て方
――アスリートのキャリアは様々ですが、神野選手もあらゆる挑戦を経て、今プロランナーになりました。その過程では、どんな目標設定をしてきたのでしょうか。
神野「『半歩先の目標』を大事にしています。きっかけは青学大で原監督の指導をいただいてから。ちょっとだけ頑張ればクリアできそうな半歩先の目標を立てて達成し、新たな目標設定を繰り返していくと、振り返ったら一歩も二歩も進んでいる。大きな目標だけを見据えて『ダメだな』『届かない』と思いながらでは、進んだ実感ができずに時が過ぎてしまう。
だから、原監督は半歩先の目標を大切にしていました。もう一つ、よく言っていたのは『柿の木作戦』。柿の実を採ろうと思って登る時、最初から一番上を目指すわけじゃない。まずは近い所で採って食べておいしいから、またちょっと登るの繰り返しで、いつのまにか行きたかった一番上に辿り着いている。これはスポーツでも勉強でも通じることに感じます」
山口「陸上における『半歩先の目標』はタイムを縮めることにあるのでしょうか」
神野「月ごとに目標を立てるのですが、試合に向けてはタイム設定ももちろんあります。それも凄いベスト記録を狙うより、現状でちょっと頑張れば届きそうなくらいの設定。そこに欲は出さず、現状を踏まえる。あとは練習の距離。先週は1週間100キロだったけど『今週は105キロ頑張ろう』ならできる。それを積み重ねていけば120キロ、130キロになります。
そうした小さな積み重ねで、本当に到達したい大きな目標に近づいていくもの。成功体験が人間を一番強くさせます。成功体験を経験すれば、やる気につながり、また頑張ろうという原動力になる。その成功体験をどう作るか。毎回、月の目標を大きなものを立てすぎて『今月もダメだった』と思ったら、なかなか競技に対するモチベーションも上がりません」
山口「自分で考え、目標を立てて実行し、達成感を味わいながら成長する。本当にその通りだけど、一つだけ、私は『努力』と『忍耐』という言葉は自分の人生で使ってこなかった。神野選手は『努力』はつらいことを頑張るイメージでしょうか」
神野「自分は才能がないところから陸上を始め、強い人にどうしたら勝てるんだろうと考えた時、他の人より練習の姿勢を大事にしようと。周りより1キロでも多く走る。補強練習も20回と言われたものを22回、23回やる。みんなと同じ練習の中でプラスアルファを努力で付け加えて、もともと速かった選手とやっと対等に戦える位置に来ることができた。
『努力』という言葉がなかったら今、絶対にプロランナーとして活動できていません。『努力は裏切らない』という座右の銘があり、その言葉を信じてここまで来た。もちろん、努力をしても結果に結び付かないことはあると思うけど、きついことを言うと、結果に結び付かない努力は努力と言わない。そのくらい、自分は『努力』という言葉を強く思っています」