雄牛の血を飲み、睾丸を食べたアスリート 五輪から考えるスポーツ栄養の歴史と進歩
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。「THE ANSWER」でスポーツ栄養の連載を手掛ける公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏は「オリンピックと食」をテーマに、スポーツの愛好家、指導者、保護者向けに短期連載を展開。最終回の第5回は「五輪から考えるスポーツ栄養の歴史と進歩」について。(構成=長島 恭子)
「THE ANSWER的 オリンピックのミカタ」#91
「THE ANSWER」は東京五輪の大会期間中「オリンピックのミカタ」と題し、実施される競技の新たな知識・視点のほか、平和・人権・多様性など五輪を通して得られる多様な“見方”を随時発信する。「THE ANSWER」でスポーツ栄養の連載を手掛ける公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏は「オリンピックと食」をテーマに、スポーツの愛好家、指導者、保護者向けに短期連載を展開。最終回の第5回は「五輪から考えるスポーツ栄養の歴史と進歩」について。(構成=長島 恭子)
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学問としてのスポーツ栄養学が確立されたのはここ40年ですが、スポーツと栄養が密接に関係することは紀元前からわかっていたとされています。
例えば、オリンピック発祥の地でもある古代ギリシャ人のアスリートは何を食べていたのでしょう? 運動代謝の権威、イギリス・ラルバラー大学のアスカー・ユーケンドルップ教授によると、当時のアスリートは、雄牛の血を飲み、睾丸を食べることがよいと考えられていたとのことです。
例えば、古代オリンピックのレスリング競技で、6連覇を果たしたといわれるクロトンのミロ(紀元前6世紀頃)は、1日9キロの肉、9キロのパン、8.5リットルのワインを飲み、子牛を肩に担いで今でいう筋力トレーニングをして鍛えていたという記録が残っています。
また、古代ギリシャの軍隊に所属していたメッセンジャーの食事も興味深いです。国をまたいで伝令を運んでいた彼らは、現代スポーツでいう長距離ランナー。任務の際は、フィグ(いちじく)、オリーブ、干し肉、はちみつとゴマをペースト状にしたものを携帯していたそうです。
メッセンジャーの食材を一つ一つみていくと、エネルギー源となる糖質、筋肉のダメージを修復するタンパク質、そしてビタミンやミネラルも豊富だとわかります。
彼らがそれを選んだのは、栄養を知ってのことか経験値からなのかはわかりませんが、携帯に便利でかつ効率のよい食材ばかりで素晴らしいと思いました。また、なぜエネルギー源にフィグを選んだのかを調べたところ、古代ギリシャのアスリートたちの間では、フィグは筋肉量を増やし、スタミナを維持するのに有効だと考えられていたため、主食代わりに食べていたようです。
さて、話を現代に戻します。スポーツ科学が進歩し、運動と食事、栄養の関係について科学的な検証を重ねられた結果、今日のスポーツ栄養はあります。では、今後、スポーツと栄養の世界で求められることは何か? ユーケンドルップ教授が挙げたキーワードは3つ。
「Nutrition training(栄養とトレーニングの統合)」「Real food not nutrients(栄養素ではなく食べ物で)」そして「Personalized nutrition(個別栄養)」です。