スポーツ栄養もジェンダーを考慮すべきか 英大学博士が紹介した2つの研究結果
Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「スポーツ栄養におけるジェンダー」について。
公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は「スポーツ栄養におけるジェンダー」
Jリーグやラグビートップリーグをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。通常は食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「スポーツ栄養におけるジェンダー」について。
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5月、スポーツ栄養や運動生理学など、スポーツ界の様々な分野で世界をリードする研究者によるサミット「WE Nutrition Summit」がオンラインで開催されました。
今年は1日かけて7コマのシンポジウムが行われましたが、なかでも新しいトピックとして着目したのは、「スポーツ栄養におけるジェンダー」というテーマです。これは、糖質の摂取が代謝や運動パフォーマンスに及ぼす影響における男女差の研究結果を、イギリス・バーミンガム大学のギャレス・ウォールス博士が発表しました。
これまで、スポーツ栄養に関する研究の多くは、男性を対象に行われてきました。ウォールス博士はその理由の一つに、女性は月経周期を考慮しなければならず、男性と比べると研究が困難だった点を上げています。しかし、女性アスリートの人口増加に伴い、スポーツ栄養の現場において男女の性差を理解し、考慮することが重要であると、特にここ5~10年で言われるようになってきました。そのためジェンダーというテーマは引き続き注目される、と言っています。
さて、ウォールス博士は今回、体の栄養介入への反応に性別の違いがあるのかを探るため、2つの研究結果を例に話をしました。1つ目は、マラソンなどの持久的スポーツの栄養戦略である、カーボローディングについて。もう一つは、運動中の糖質の摂取量に関するものです。
カーボローディングについては、男性も女性も体内に貯蔵できる筋グリコーゲン量に差はないものの、女性アスリートがアメリカスポーツ医学会やIOCから示されている現在のガイドラインに沿って糖質を摂取するのは、非常に難しいと指摘。
例えば、体重69.2kgの女性アスリートがカーボローディングを実施する場合、試合3日前~前日まで、体重1kgにつき糖質10~12g/kgを毎日摂ることになりますが、計算すると、実に1日684gの糖質(パスタ乾麺で約1kgに相当)が必要。この量は、1日の総摂取エネルギー量の85%を占めるため、「どれだけたくさんの量のパスタを食べないといけないのか!」とコメント。事実、消化管の不快な症状(腹部膨満感、下痢など)を訴える選手も少なくない、といいます。
ウォールス博士はこれまでの研究から、女性アスリートがグリコーゲンローディングを実施する場合、試合3日前から体重1kg当たり8~10gの糖質を摂るのが現実的ではないか、という考えを述べています。