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ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏と横浜キヤノンイーグルスの天野寿紀が訪問

居ても立ってもいられなかった。12月11日、ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏とリーグワン・横浜キヤノンイーグルスのスクラムハーフ(SH)天野寿紀は東北新幹線に飛び乗り、三陸の街・石巻を目指した。

「東北『夢』応援プログラム」のイベントで石巻工業高校の生徒と交流した天野寿紀(前列左)と菊谷崇氏(前列右)【写真:村上正広】
「東北『夢』応援プログラム」のイベントで石巻工業高校の生徒と交流した天野寿紀(前列左)と菊谷崇氏(前列右)【写真:村上正広】

「0-102」の大敗から再出発 石巻工ラグビー部が失敗から学び、見出す夢への可能性

 居ても立ってもいられなかった。12月11日、ラグビー元日本代表主将の菊谷崇氏とリーグワン・横浜キヤノンイーグルスのスクラムハーフ(SH)天野寿紀は東北新幹線に飛び乗り、三陸の街・石巻を目指した。

 日本大学ラグビー部でヘッドコーチを務める菊谷氏は、マルチ競技で小中学生や指導者を育成する「ブリングアップ・アスレティックソサエティー」の代表としても活動するなど多忙な毎日を送る人物。天野も18日に迫るシーズン開幕に向け、調整や準備に余念のない大事な時間を過ごしていた。だが、縁が深い高校生ラガーマンたちのために、2人はスケジュールを合わせた。

 東京を出発して3時間余り。到着した場所は宮城・石巻工業高校だ。被災地の子供たちの夢や目標を年間を通して応援しようという、公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」。そこで「夢応援マイスター」を務める2人は、同校ラグビー部が目標を達成できるように継続的なサポートをしている。菊谷氏が現役だった2016年、当時所属したキヤノンイーグルスの代表としてプログラムに賛同したことをきっかけに始まり、今年で7年目だ。

 石巻工業ラグビー部が目指すのは、もちろん花園出場だ。だが、宮城県には前年度まで26大会連続出場を誇る強豪・仙台育英高校がいる。悲願達成のためには、仙台育英の壁をぶち破らなければならない。今年6月に開催されたイベントでは、同校を訪問した菊谷氏と天野の前で改めて「打倒・仙台育英」を誓った石巻工業ラグビー部だったが、10月20日の花園予選準決勝では0-102と大敗。文字通り、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。

 遠く離れた関東で試合結果を聞いた菊谷氏と天野は、新チームとして動き始めた1、2年生が持つレジリエンスに期待しながら同時に、大きな衝撃を受けたであろう10代の心を思いやった。失敗することは確かに辛い。思い出すことも嫌だろう。だが、そこから目を背けてしまっては何も生まれることはない。失敗から学んだことを一つだけでも次の挑戦に生かせた時、そこに初めて成長が生まれる。辛い体験からポジティブな未来を生み出すプロセスを、2人は新チームに伝えたかった。

生徒たちのディスカッションに耳を傾ける天野(右)【写真:村上正広】
生徒たちのディスカッションに耳を傾ける天野(右)【写真:村上正広】

菊谷氏が「正直に自分の意見を言える環境は素晴らしい」と言った理由とは

 あいにく資格試験などと重なり、集まったのは1年生6人、2年生4人の少数精鋭。この日のプログラムはまず、教室を舞台としたディスカッションから始まった。

 7月にFW(フォワード)は「ボール獲得率100% スクラム(時の膝は地上)5センチ」、BK(バックス)は「攻撃時はラックができてから3秒以内にラインをセット 防御時はタックル後、3秒以内に体勢を整える」という目標を設定。菊谷氏は部員たちに「“打倒・育英”というチーム目標、FW目標、BK目標それぞれに対し、よくできたと思うGOODな点、課題だと思うBADな点を、制限時間7分30秒で書き出してみてください」とタスクを与えた。各自で書き出し作業が終わると、次は書き出した内容を隣に座る仲間と共有。最後にそこで得た気づきや発見を全員に発表させた。

 1年生からはGOODな点として「目標を意識しながら練習に取り組めた」「チームでまとまりが出た」「育英戦前のアップは今までにないくらい良かった」など、BADな点としては「試合でも練習でもコミュニケーションが図れていなかった」「目標を意識した練習を始めるのが遅かった」などといった声が上がった。

 2年生からはGOODな点として「育英戦に向けてチーム力が上がった」「1対1の場面でタックルして大きい体格の選手を倒せた」など、BADな点として「育英戦までモチベーションが高まらなかった」「仲間との連携やセットプレーでミスが多かった」「プレーに関するコミュニケーションが少なかった」などという意見が聞こえた。

 時には大きく頷きながら全員の発表に耳を傾けた天野は「それぞれが自分の視点を持って取り組んだから、それぞれの意見が出てくる。みんなが自分の目線から考えた意見は全部が正解。自分とは違う視点もあったよね。意見を仲間と共有して、新たな気付きを得ることが大事だと思うよ」とアドバイス。続いて菊谷氏は「みんなの意見を聞いていると、プレー以外にも『ウォームアップをしっかりする』『声を出す』といった目標設定も必要かもしれない」と指摘した後で、こう言葉を続けた。

「新しい気付きも得られるし、目標の共有もできるから、定期的にこうやって意見交換の時間を作ってみるといいと思います。こうやって1年生も2年生も正直に自分の意見を言える環境は素晴らしい。そこはこのチームが誇るべきところ。自分の意見を言うことは時に失敗を伴うので、とても勇気のいること。失敗を恐れて意見を言わなければ、そこから何も始まらない。でも、このチームには言える環境があるのだから、それを生かしていこう」

菊谷氏(中央)は約2時間にわたりグラウンドで指導した【写真:村上正広】
菊谷氏(中央)は約2時間にわたりグラウンドで指導した【写真:村上正広】

グラウンドでは「考えながらコミュニケーションを取る」練習を実施

 大敗を振り返り、考え、意見交換をした後は、グラウンドに出て「失敗から得た気づき」を実践する番だ。気温10度に満たない寒さの中で取り組んだのは、考えながらコミュニケーションを図る練習だ。円陣を組んでのパス練習では、全員がボールを持って左に1回、右に2回、左に3回、右に4回とパスする方向と回数を変えながら、失敗せずに「10」まで数えきることが目標。“親”に指名された部員が掛け声を出しながらパスしていくが、どうやらパスを回しやすい掛け声と回しにくい掛け声の傾向があるようだ。

 掛け声なしでパスを成功させるにはどうしたらいいのか。あるいは、どうしたらしりとりをしながらランパスができるのか。菊谷氏と天野は時折、部員たちに問いかけながら、約2時間にわたるグラウンドセッションを終えた。

「ラグビーを通じて、なりたい自分になるサポートをしたい。積極的に学んでほしい」と呼びかけた天野の元に、練習後はSHの2選手が自主的に集結。正確なパスを出すコツなどを積極的に吸収しようとする姿が印象的だった。

 この日、菊谷氏と天野が伝えた「失敗と向き合う勇気」と「失敗を恐れない勇気」。参加した部員たちは、やむなく欠席した部員たちにどう伝え、どう実践していくのか。次回会う時にはどんな成長が見られるのか、楽しみだ。

(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)

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