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元競泳五輪代表の伊藤さんが「東北『夢』応援プログラム」で経験した“遠隔指導”

競泳の北京五輪、ロンドン五輪代表の伊藤華英さんが21日、岩手・大船渡で行われた「東北『夢』応援プログラム」に出演。10か月間、動画による遠隔指導を利用し、取り組んできた水泳の成果発表が行われ、7mしか泳げなかった子供が劇的な成長を見せるなど、指導は大成功となった。

大船渡の子供たちに10か月間、動画による遠隔指導を行ってきた伊藤華英さん【写真:村上正広】
大船渡の子供たちに10か月間、動画による遠隔指導を行ってきた伊藤華英さん【写真:村上正広】

7mしか泳げなかった子供も… 伊藤華英さんは大船渡の子供をいかに成長させたのか

 競泳の北京五輪、ロンドン五輪代表の伊藤華英さんが21日、岩手・大船渡で行われた「東北『夢』応援プログラム」に出演。10か月間、動画による遠隔指導を利用し、取り組んできた水泳の成果発表が行われ、7mしか泳げなかった子供が劇的な成長を見せるなど、指導は大成功となった。

 少しずつ、本来の姿を取り戻しつつある街で、子供たちが確かに、成長の跡を示した。伊藤さんが訪れたのは、東日本大震災で甚大な津波の被害を受けた大船渡、それも沿岸部にある「メイワエアロビクスクラブ」だ。今月で震災から7年が過ぎた。「ちょっとずつ、街が新しくなってますね」。指導2年目になる伊藤さんは、力強い息吹を感じながら、プールに足を踏み入れた。

 競泳の元オリンピアンが協力したのは、公財「東日本大震災復興支援財団」が行う「東北『夢』応援プログラム」。被災地の子供たちに対し、毎日、直に接することができなくても、遠隔指導ツール「スマートコーチ」を利用し、オンライン上の動画を通じて1対1の個別指導を続け、子供たちが設定した目標に少しでも近づける――。そんな画期的なコンセプトの企画だった。

 水泳編の指導役「夢応援マイスター」を務めた伊藤さん。昨年6月の初回「夢宣言イベント」以来、月に1度、送られてくる動画に対し、アドバイスを送り、距離は離れていてもずっとつながってきた。だから、10か月ぶりの再会であっても緊張感はなく、和気藹々とした空気が流れた。この日は小学2年から中学3年まで9人による成果発表。伊藤さんの開会の言葉から幕を開けた。

「1年間、よく話を聞いて頑張ったと思う。自信を持ってタイムを計りましょう。その前にもう少しうまくなってから」。こう話すと、成果発表の前にクリニックが始まった。共通の課題だった「けのび」「キック」などを細かくアドバイスしながら1時間にわたって指導。勢い良く泳ぐ子供たちも充実感いっぱいの表情で取り組んだ。そして、待ちに待った成果発表が行われた。

成果発表の前にはクリニックを実施【写真:村上正広】
成果発表の前にはクリニックを実施【写真:村上正広】

7mしか泳げなかった小学2年生、劇的な成長に伊藤さんも拍手

 小学生は25メートル、中学生は50メートルに挑戦。すると、小学生は全員タイムを伸ばし、目覚ましい成長を見せた。なかでも、光ったのは小学2年生の細谷真瑚さんだ。10か月前、わずか7メートルしか泳げなかったが、伊藤さんの初回の1時間の指導で一気に25メートル泳げるようになった。以来、伊藤さんとの遠隔指導もしっかりと取り組み、タイムを縮めた。

 水面から顔を上げた細谷さんの顔には笑みが浮かび、誰よりも努力を見続けてきた伊藤さんも手放しで拍手を送った。プール内も大きな拍手に包まれ、子供の成長が形となった象徴的な一つの瞬間となった。迎えた修了式。まずは東京五輪組織委員会の一員として日本選手団の広報活動を担い、伊藤さんが現地で過ごした2月の平昌五輪についてのトークコーナーが行われた。

 伊藤さんは「羽生結弦選手が金メダルを獲得したフィギュアスケートは日本のファンが多く、会場の半分以上が日本人だったんじゃないか」と熱気に驚き、銀メダルを獲得した宇野昌磨と羽生との舞台裏での掛け合いなどの秘話で金メダリストの素顔を知り、子供たちも喜んでいた。

 そして、遠隔指導によって子供たちと過ごした10か月について総括。ラグビー愛好家でもある伊藤さんは全日本大学選手権9連覇を達成した帝京大の名将の言葉も引き合いに出しながら、メッセージを贈った。

「1年間、成長を見られてうれしかった」と伊藤氏は振り返った【写真:村上正広】
「1年間、成長を見られてうれしかった」と伊藤氏は振り返った【写真:村上正広】

伊藤さんが最後に子供たちに贈った“ある言葉”とは

「みんな、見違えるような泳ぎになった。ただ、タイムよりも一つ一つの積み重ねが成果につながるということ。失敗はチャレンジの証拠。いっぱいチャレンジして失敗を経験してください。帝京大ラグビー部の岩出監督は『壁にぶつかり、倒れた時にすぐに立ち上がれる人間が一流。少し時間がかかる人間は二流。立ち上がれずに寝転んでいる人間は敗者だ』と言っています。

 また『一生懸命やっているだけでは人に感動してもらえる人間にならない。周りに応援してもらえる人間になるにはつらいこと、苦しいことにぶつかったときに楽しむことが重要』とも言います。どんな状況でも楽しむんだという気持ちが未来につながる。学校の授業、イベントいろんなことがあっても面倒くさがらずに取り組むことで、きっといい時間を過ごせると思います」

 締めくくりには、子供たち一人ひとりが1年間を振り返った。「スター選手のおかげでうまくなれた」「動画見ることでアドバイスをもらって生かすことができて良かった」と次々に語り、細谷さんは「速く泳げるようになった。1年間、うまくできないこともあったけど、華英コーチに教えてもらって楽しく泳げた」と初々しく話すと伊藤さんから修了証をもらい、笑みがこぼれた。

「あっという間に身長が大きくなったり、顔が変わったり、1年間、成長を見られてうれしかったです。動画だけど、1か月に1回会えるような気分でした。いまどきの最新のテクノロジーを使い、みんなと近くにいられました。また、みんなの存在を通して、この地に来られ、水泳の役割についても考えさせられました。ここで学んだことをみんなも今後に一生懸命に生かしてください」

 伊藤さんは最後にこう話し、拍手で送られ、会場を後にした。ただ、タイムを伸ばすだけじゃなく、どんな壁にぶつかっても前を向き、挑戦し続けることで得られることがある。それが、成長につながる――。前進を続ける大船渡で生きる子供たちに残した思いは、長い人生の糧になるだろう。

(THE ANSWER編集部)

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