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「一発目タックルに気持ちを」― ラグビー元日本代表主将が石巻工へ「花園」の願い

第97回全国高校ラグビーフットボール大会宮城県予選の準決勝2試合が18日に宮城県サッカー場で行われた。第1試合は、22年連続24度目の「花園出場」を目指す仙台育英が85-0(前半35-0)と圧倒的な強さで利府を破って決勝進出。続く第2試合では、3年連続予選決勝で仙台育英に敗れている石巻工業と仙台第三が対戦し、前半は接戦で折り返したが、後半に石巻工業が勢いに乗り、35-15で決勝に駒を進めた。

石巻工業のラグビー部に指導を行った天野寿紀【写真:村上正広】
石巻工業のラグビー部に指導を行った天野寿紀【写真:村上正広】

キヤノンの元日本代表・菊谷と天野が被災地・石巻工ラグビー部にエール

 第97回全国高校ラグビーフットボール大会宮城県予選の準決勝2試合が18日に宮城県サッカー場で行われた。第1試合は、22年連続24度目の「花園出場」を目指す仙台育英が85-0(前半35-0)と圧倒的な強さで利府を破って決勝進出。続く第2試合では、3年連続予選決勝で仙台育英に敗れている石巻工業と仙台第三が対戦し、前半は接戦で折り返したが、後半に石巻工業が勢いに乗り、35-15で決勝に駒を進めた。

 この日、石巻工業の決勝進出を強く願っている選手たちがいた。ラグビートップリーグのキヤノンイーグルスに所属する菊谷崇と天野寿紀だ。37歳の菊谷は日本代表として2011年ワールドカップに主将として全試合に出場し、エディー・ジョーンズ前ヘッドコーチ率いるフル代表メンバーにも選出された。一方、26歳の天野は高校日本代表に選ばれた経歴を持ち、現在はチームのスクラムハーフとして活躍しているリーグ屈指のラガーマンだ。

 菊谷は昨年、東日本大震災から5年が経過した頃、東北支援活動が減少傾向にある中、「東北のために力になりたい」との想いから支援活動を決断。未来の東北を担う人材の育成を目的として、2016年3月に公益財団法人東日本大震災復興支援財団が立ち上げた「東北『夢』応援プログラム」に、キヤノンイーグルスの代表として賛同を表明した。

 プログラムを通じて出会ったのが石巻工業のラグビー部員だ。当時は2年連続で宮城県大会決勝で仙台育英に敗れていたチームを、キヤノンイーグルスとして「花園出場」という目標をサポートすることになった。

石巻工業のラグビー部に指導する菊谷崇【写真:村上正広】
石巻工業のラグビー部に指導する菊谷崇【写真:村上正広】

「東北『夢』応援プログラム」で続けてきた「花園」への挑戦

 本プログラムでは、生徒たちへの指導を1回の訪問で終わらせることなく、スマートフォン上の動画を通じ、年間を通して継続的に遠隔指導を行うという画期的な方法を取り入れた。中間期、1年後には、成長を確認するための成果発表イベントも設けている。

 昨年の宮城県予選決勝には、菊谷も会場に足を運んだが、0-68と完敗。石巻工業は3年連続決勝の舞台で涙をのみ、悲願はならなかった。そこから3年生が引退した新チームで、菊谷をはじめとするキヤノンイーグルスと石巻工業の「花園出場」の挑戦は続いた。

 菊谷と天野は、今年5月に石巻工業を訪問。生徒たちと2日間、一緒に汗を流し、練習後には、フォワード、バックス、そしてチーム全体の目標を設定した。プロセスの行動ひとつひとつまで細かくディスカッションも行うとともに、チーム全体の目標である「打倒・仙台育英」に向けて、遠隔でアドバイスや課題を送りながらサポートを続けてきた。

 菊谷と天野は18日、チームのオフ日を利用して再び石巻工業を訪れた。これまでの県予選を振り返りながら、ビデオ分析、決勝を戦う上でのアドバイスを約2時間30分に渡って実施。それをしっかりと胸に受け止めた生徒たちの目は輝いていた。

 仙台育英との決勝戦当日(10月22日)は、キヤノンイーグルスの試合日程と重なっているため、菊谷と天野は会場に駆けつけることはできない。「今日は絶対に自分たちは勝てる、という気持ちにして帰りたい」と開始前から話していた2人は、最後にこうメッセージを送った。

2人は選手らに「一発目タックルに気持ちを込めて戦おう」との言葉を送った【写真:村上正広】
2人は選手らに「一発目タックルに気持ちを込めて戦おう」との言葉を送った【写真:村上正広】

2人が選手に送った言葉…「一発目タックルに気持ちを込めて戦おう」

「監督さんが立てているプランとみんなのプレーはひとつになっている。自信を持って、そのプレーがグラウンドで出せれば絶対にチャンスはある。今年も惜しかったな、去年よりも点差が縮まったな、もうちょっとで勝てたな……じゃない。今日の分析で相手がやってくることも分かってるし、自分たちが勝てるイメージは描けている。

 自分たちがやりたいラグビーを作れてきているから、あとはやるだけ。試合までの2日間、まだ準備する時間があるから、積極的にコミュニケーションをとって、あとはグラウンドで精一杯やろう。相手は同じ高校生。天と地がひっくり返るほどの差はない。絶対勝てるから。そして、スタメンで出る人はチームの代表だということ。出られない人の分も、応援に来てくれている人にも幸せを与えられるように、まずは一発目タックルにその気持ちを込めて戦おう」(天野)

「みんなは、準決勝でモールを作れたところが勝因のひとつだと言ってたけど、モールを作る前にラインアウトを取らないといけない。これが本当に良かった。次の試合でも生かしていこう。この試合に勝って、花園に行った時に、自分たちが想像できないくらい、石巻工業OBの人や石巻市の人たちが、どれだけ自分たちを見てくれていたのか、応援してくれていたのかということにも気づくと思う。

 それによって、この被災地である石巻の人たちに、そして全校生徒に、どれだけ自分たちが勇気を与えることができるか、その時に分かると思う。それを気づくために、ここにいる生涯の友と一緒に生涯記憶に残る思い出をしっかり作りにいこう。

 そして、花園で再会できることを楽しみにしています。22日の試合までではなく、花園までみんながひとつになって戦えることを信じています」(菊谷)

 昨年は仙台育英に完敗して3年連続で決勝の舞台で涙をのんだが、約5か月間の遠隔指導に加え、厳しい練習を積んできた石巻工業の生徒たちは、きっと成長しているはずだ。熱き菊谷と天野の思いを胸に、花園出場の切符を掴むことができるか。宮城県予選決勝は、22日11時からユアテックスタジアム仙台で開催される。

(THE ANSWER編集部)

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