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「生理が止まったら練習できている証拠と…」 未だ「ピル=避妊」と理解進まぬ日本にメダリストの警鐘――マラソン・有森裕子

マラソンは「人が生きるために一番使えるスポーツ」

 現役時代にマラソンをライスワーク(ご飯を食べていくための仕事)と捉えていた信念は、引退した今も変わらない。そこからはマラソンというスポーツに対する尊敬の念と、自身のプライドが読み取れる。

 マラソンとはどういうスポーツで、人はそこから何を学ぶのだろうか。

「人が生きるために一番使えるスポーツだと思います。マラソンのように年齢も性別も役職も関係なく、同じ日に同じスタートラインに並んでできる競技ってなかなかないんです。しかもマラソンって、苦しい練習を繰り返しずっと続けなくてはいけないし、ゴールするまでにどうなるか分からない。こうしたい、こうなりたいと思うことがエネルギーになって自分を動かしていくのですが、42.195キロの中でいろいろなものが見えてくるし、いろいろなことが起こる。マラソンは人間社会の縮図だと思うんです」

 マラソンにおいて、ランナーは自己ベストを更新するため、あるいは完走するためにゴールを目指して走る。途中、足が攣ったり、体調が悪くなったりすることも起こるが、ランナーは簡単に諦めることをしない。

「ランナーの皆さんって、止まらないんですよ。実は、みんなが走っているなか、自分だけが止まる決断をするのって、すごく勇気がいることなんです。それに、そこで止まらないのは思っている以上に自分がしつこくて、諦めていないからなんです。我慢して止まらずに走っていくなかで、お婆ちゃんに抜かれたらショックでしょうし、着ぐるみを着た人に抜かれたりするようなら、きっとめちゃくちゃ腹が立ちます(笑)。自分の普段知らない人格が出てきたり、自分で決めつけていた人格を否定したり、喜怒哀楽を走るすべての人に感じさせるスポーツは、マラソンしかないと私は思っています」

 マラソンは今、多くの市民に愛され、支えられている。有森自身は理由がない限り走らないが、マラソン未経験者の人には、こう伝えていきたいという。

「マラソンって、すごく面白いよ」

■有森裕子 / Yuko Arimori

 1966年12月17日生まれ、岡山県出身。日体大を卒業後、リクルートに入社しマラソンに挑戦。92年バルセロナ五輪で銀メダルを、96年アトランタ五輪で銅メダルを獲得した。アトランタ五輪後に残した「自分で自分を褒めたい」は、同年の流行語大賞に。その後も日本初のプロランナーとなるなどスポーツ界の第一線を走り続け、07年2月に競技生活から引退した。現役時代から社会貢献活動にも力を入れ、10年6月には国際オリンピック委員会(IOC)女性スポーツ賞を日本人として初受賞。現在はIOC Olympism365委員会委員や日本陸上競技連盟副会長をはじめ、ハート・オブ・ゴールド代表理事、大学スポーツ協会(UNIVAS)副会長などの要職を務める。

(佐藤 俊 / Shun Sato)


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佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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