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20歳で金メダル→スパッと引退 恋したカエルを求めて修士課程2年生に…今の目標は「絶対に博士号を」――ボクシング・入江聖奈

金メダルを獲得した東京五輪、「もう3年も経ったのか」と率直な感想を漏らす【写真:Getty Images】
金メダルを獲得した東京五輪、「もう3年も経ったのか」と率直な感想を漏らす【写真:Getty Images】

「カエルに感情があるかどうかは分からないにしても“気持ち”はある」

 早速、カエル研究の日々が始まった。フィールドワークでは都内の公園に自転車で赴き、「健康診断的な体重測定とかそういうことをして、頑張ってデータを取っていました」。アスリートゆえ、ときに50kmの距離もまったく苦にならない。日体大時代は練習の合間にカエルを見て癒されていたが、研究対象となって毎日見ても飽きないから、カエルLOVEを再確認できた。

 体重を測るとなると、当然ながら捕まえなきゃいけない。

「手を抜いたら、カエルって反応がもの凄く速いので逃げられてしまいます。そろーり、そろーりと近づいていってパッとつかむ。情をかけちゃダメなんですよ。本気でいかないと絶対に捕まらないので、いかに手加減なしでやるかがポイントなんです」

 じっと相手を観察して、まるで生命線だったジャブを繰り出すように。ボクシングで培ったものが、まさかここで役に立つとは。相手がよりスピーディーだと燃えてくるそうだ。

「ニホンアカガエルは凄いシャープな子なんですよ。跳躍力もかなりありますし、捕まえるにはこちらもかなり本気を出さなきゃいけませんからね」

 ユーモアたっぷりな口ぶりに、心の充実ぶりがうかがえる。

 ボクサー時代よりも1日が忙しい。というより1日のリズムが違うと言ったほうが正確だろうか。

「ボクシングをやっていたときは、練習の2、3時間に向けて調子を合わせていく感じでした。それまでは休息を取ったりして24分の3に集中するという生活。でも今はなんか1日丸々、カエルのことをしているので、時間の使い方は全然違うなって思います」

 朝はなるべく論文を読み、パソコンを駆使して調べものや課題などに取り組む。昼になると20匹ほど飼っているカエルの世話をする。これがとにかく時間が掛かるという。

「凄く小っちゃい子もいて、とにかく手が掛かるんです。小っちゃいからトビムシしか食べられなくて、このトビムシ集めに3時間くらい掛かる。日中はそれでつぶれますね。トビムシの研究したほうがいいんじゃないかってくらい時間を割いています(笑)」

 学校にも行かなければならないし、研究対象のヒキガエルが夜行性のため、夜はヒキガエルの調査に充てなければならない。そうやって1日ずっとカエルと向き合ってみて、やっと分かってくるものがある。

「やっぱり図鑑には書いてないことを調べるのが研究。カエルに感情があるかどうかは分からないにしても“気持ち”はあるんですよ。いかに寄り添えるか、いかにカエルの気持ちを知ることができるかが、生態学者としての大事なポイントなんだろうなっていうのは指導教員からも学んでいます。寄り添うことで感じた部分っていうのは数えられないほどあるので」

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二宮 寿朗

1972年生まれ、愛媛県出身。日本大学法学部卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社。2006年に退社後、「Number」編集部を経て独立した。サッカーをはじめ格闘技やボクシング、ラグビーなどを追い、インタビューでは取材対象者と信頼関係を築きながら内面に鋭く迫る。著書に『松田直樹を忘れない』(三栄書房)、『中村俊輔 サッカー覚書』(文藝春秋、共著)、『鉄人の思考法~1980年生まれ戦い続けるアスリート』(集英社)、『ベイスターズ再建録』(双葉社)などがある。

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