プロ引退直後に英国名門大でMBA取得へ ラグビー・土佐誠が続ける“世界との競争”
伝統の一戦に2度目の出場「お金では買えない伝統の一部に」
カレッジ制を採るケンブリッジ大では各カレッジにラグビー部があり、それぞれから優秀な選手を集めた“選抜チーム”が、毎年3月に行われるオックスフォード大との対抗戦「ザ・バーシティーマッチ」に臨む。1872年から始まり、今年で142回を迎えた伝統の一戦。両大学のラグビー部員にとって、この試合に出場することが最大の目標となっている。
今年は3月2日に行われた決戦に、土佐はNO.8として先発出場する栄誉を受けた。実は土佐がザ・バーシティーマッチに出場するのは2度目の出来事。関東学院大を卒業した2009年にオックスフォード大へ留学した際、同年のザ・バーシティーマッチに途中出場している。出場者のみ得られる「ブルー」の称号を両大学で手にすることは稀だ。
「みんな1年に一度の試合に出るため、そこに懸けて練習しているところもあるので、同じポジションの選手には気の毒なことをしたというか、本当に悔しそうでしたね。それだけみんなの思いが詰まった試合なんだと再確認しました」
出場メンバー決定の知らせは伝統に則った“アナログ方式”だ。特別なブレザーを来た主将が自転車で各カレッジを訪れて選出メンバーに伝えて回る。その他にも、主将の所属カレッジで選手の集合写真を撮ったり、タキシード姿で歌を唄ったり、150年の歴史とともに様々な儀式や行事が受け継がれてきた。15年前の初出場時は「圧倒されたというか、緊張して大変でした」と笑うが、「お金では買えない伝統の一部になること」を楽しめた今回は、試合にフル出場。後半9分にはトライを決めて、チームの勝利に大貢献した。
「僕がラグビーを始めた時はプロリーグはなかったし、プロ選手もほぼいなかった。日本代表もなかなか勝てず、ラグビーのアスリートとしての価値があまり見出せない状況でした。ただ、ラグビーが持つ普遍的な価値として、社会性のある人間が多くて、社会に出るとすごくタフで良い人材になる文武両道がある。その頂点とも言えるザ・バーシティーマッチという場に立てたことは非常に光栄ですし、プロのキャリアを経ながらですが、しっかり勉強して、スポーツもして、それを社会で生かすということを少し実践できているのかなと思います」
ちなみに、現在ケンブリッジ大で学んでいることを、自ら周囲に話すことはあまりない。
「ただ学校に行っているだけなんで。どこで勉強するかより、そこを出て何をするかの方が大事。ケンブリッジ大に行っているのは何の自慢にもならなくて、何かを成し遂げてから出身校が分かるのは面白いかもしれないですけど」
ビジネススクールを卒業するのは2025年4月の予定。それまでに論文をまとめ、2年連続でのザ・バーシティーマッチ出場を目指した文武両道を実践する。
「僕のポジション(フランカー、NO.8)は味方か敵に必ず1人はオールブラックス(NZ代表)や他国の代表経験者がいて、ポジションを競る状況の中で良い競争を学べた。だから、引退後も世界レベルで良い競争を続けていけば、何か良いものが見えてくると思うんです。ただ、卒業後にはすぐ40歳になって、日本の定年まで20年しかなくなる。それまでに何かをやり遂げるといったら時間がない状況なので、少し焦っています。自分が身につけたスキルを生かせる場所で、自分の身を投じて何か結果を出したいと思います」
深い学びを得た土佐が、卒業後にどんな道を歩むのか、そして何を結果として残すのか、今から楽しみだ。
(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)