「上っていくばかりじゃ面白くないでしょ、人生」 W杯落選、島暮らしで孤立も味わった久保竜彦の生き様
ドイツW杯落選で培った人生観「ずっと上っていくばかりじゃ面白くないでしょ」
「俺はサッカーが好きで、一番になりたかったし、優勝したかったし。一番注目される選手になりたかったし。金が欲しいとかじゃなかったけどね。俺が一番うめえ、俺が点取ったら勝つんやってのはあったから。何を目指してるかなんて人それぞれやし。それは突き進んでいくしかないんじゃないの。
そういうのを見て助けてくれる人もおるし。知らん顔もされるかもしれんけど、それはそれでね。こういう風になれって(誰かの指示を)聞くのも(本当の自分からすると)嘘だと思うし。(人生の選択は)それくらいのことやと思うし、別に比べるのが好きだったら、比べて頑張ればいいわけやんか」
そんな話を聞いて、ふと思い出した言葉がある。
昨年11月、カタールW杯の代表メンバー発表に合わせ、久保を取材した。当落線上で涙を呑んだ2006年ドイツW杯。その夜、1年半やめていた酒を浴びるほど飲み、テレビの取材に応じた母が涙する姿を初めて見て、「もう、かあちゃんを泣かすようなことしたらあかんな」と思ったという。
そして、自らと同じく落選したメンバーへの想いを問うと「落ちりゃ、それも面白いと思う。だって、ずっと上っていくばかりじゃ面白くないでしょ、人生」と言った。
「落ちたら落ちたで、どういう気持ちになるか、その時に周りに誰がいてくれるか、なかなか見られんから。あとはまた上がればいい。浮き沈みがある方が楽しいでしょ。なかなか落ちることってないもんね、人生で。だって、自分の力では落ちれんもん。それを経験できるのも面白いんじゃないですか」
栄光も、困難も、挫折すらも。あるがままを受け入れ、置かれた環境を楽しむ。この人生観が久保の根底にあるように感じた。
こう記していると、今の久保は地方で悠々自適なスローライフに見えるが、苦労もあった。インタビューを終えた夜に設けた一席で日本酒を煽りながら言った。
「実際、(塩作りをしている)島は孤立無援やったよ。嫁はすぐ友達作って半年くらいで(周囲と)仲良くしとったけど、俺は3年かかった」。根っからの人見知り。181センチある無口な大男が人口50人の島にやってくる。「元日本代表」の肩書きなど何の意味もない。居酒屋で一人、酒を煽る日々だった。
久保は打ち解けるまでに時間がかかるが、その分、ともに生きる人を大切にする。
サンフレッチェを辞めたのは「人が変わって、気に入らんかったけえ」。マリノスを選んだのも交渉の席に「嫁さんを呼べ」と言い、クラブの関係者なし、夫婦2人と監督1人で腹を割ってくれた岡田武史監督に漢気を感じたから。そして、マリノスを去ろうと思ったのも、その岡田監督と心酔した先輩・奥大介がいなくなるから。
「気持ち良くいられるところを、ずっと探してるんかな。気持ち良いと感じる人の基準? そんなんはないけど、嘘つかんかったり、これと決めたらやることだったり」
そうして長い時間をかけながら、室積や牛島で居場所も作った。
「包丁がズタボロになったら(近所の知り合いに)研いでもらって、めっちゃ切れるようになって。刺身で食って。そんな感じでしよったら、むっちゃ捌くのがうまいおばちゃんと友達になって『魚、持ってこんね』とか言ってくれて。最近は『おばちゃんも食ってね』みたいな感じでお返ししたり、それでまたなんか作ってくれたり」