英語力ゼロで単身渡英「生きるのに必死」 挫折を経ての決断、そこで見つけた“大切なこと”――トランポリン・森ひかる

五輪メダリストに声を掛けられ始まった交流
現役続行を表明したのは22年2月。すでに東京五輪から半年の月日が流れていたが、腹を決めると間もなく、海外修行のチャンスを掴んだ。
2022年7月、スイスで開催されたワールドカップ。個人競技で決勝に進んだ森は、8人中一番目に演技を終え、他の選手を見ていた。すると、近づいてきた一人の選手から「いい演技だったね」と声を掛けられる。東京五輪の銅メダリストであり、後のパリ大会で金メダルを獲得する、イギリスのブライオニー・ペイジだった。
「彼女は自分が飛ぶ前だというのに、わざわざその言葉を言いに来てくれたんです。私が同じ立場だったら、そんな行動は絶対にできません。なんてスゴイ選手なのだろうと思いました」
大会の結果は、森が銀メダルを、そしてペイジが金メダルを獲得。表彰式でペイジと並んだ森は咄嗟に「あなたのところへ、練習しに行ってもいいですか?」と伝えた。
「私の英語力は『ハロー』と挨拶ができる程度。スマホの翻訳機能を使い、彼女に気持ちを伝えました。当時はブライオニーと話をしたこともなかったけれど、声を掛けてくれた行動を見て、『この人のところへ行こう!』と決めました」
相手のことをまったく知らないのはペイジも同様だが、彼女はその申し出を快く受け入れた。森は翌8月には単身で渡英し、ペイジとともに合宿へ。二人で宿泊先を借り、2週間生活を共にした。
その行動力には舌を巻くが、「正直、一歩踏み出すのはすごく怖かった」と言う。
「ブライオニーは、初めて憧れを持った選手だったが友達ではなかったし、人柄もわからない。そのうえ言葉も通じない、誰がコーチなのかも知らない状況下で、トランポリンも飛ばないといけない。なんかもういろいろと怖くて、飛行機で大泣きしながら向かいました」
しかし幸いにも、ペイジとは気が合った。慣れない生活を送る森の分も、毎日食事を用意してくれる温かな人柄にも触れ、不安はすぐに払拭された。
「24時間、ブライオニーと過ごしてわかったのは、強い選手というのは人間性も素晴らしいということです。
また、彼女は私よりも9歳年上ですが、一度たりとも『(競技を)やめる』という言葉を口にしたことがありません。伝わってきたのは、トランポリンが大好きであること、そしてすごく楽しんでいるということ。ブライオニーに話しかけた私の直感は、間違ってなかった」
![[THE ANSWER] スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト](https://the-ans.jp/wp-content/themes/the-answer-pc-v2/common/img/logo_c1.png)










