「違った50代が見えてくる」 海外挑戦中のバスケ元日本一HC、“できない自分”の先に描く未来

年齢を重ねた海外挑戦だからこそ「冷静に受け止められる」
中学時代にスペインに渡った長男の慎之助くんは、2年間でスペイン語をマスターし、現地の学校を卒業した。佐藤と同じタイミングで渡独した今は、英語、スペイン語、少しばかりのドイツ語を駆使しながら、ルートヴィヒスブルクの下部組織の練習に参加しているという。
「ドイツ語はまだまだ苦戦していますが、日本の漫画の話をしたりしながら頑張ってコミュニケーションを取っているようです。そういう吸収力や順応力は自分にはないものなので、素直にうらやましいです」。佐藤はそう苦笑しつつ、「若返ることはできないですし、微妙なニュアンスを理解させてあげられるよう、もっともっと彼らの力になれるよう、少しずつ、我慢強く勉強するしかないですね」と話した。
昨年12月、クリスマスシーズン真っただ中のドイツで45歳を迎えた。日本にいれば、これまで培ってきたものを生かし、ある程度精神的な余裕を持ちながら対価を得られる生き方も選べただろう。しかし佐藤はあえてそれを選ばず、縁もゆかりもない異国に飛び出した。そして、その決断を大それたものとは捉えていないと言う。
「傍から見たら、B1で5年HCをやった40を超えたおじさんが海外に出るというのは、珍しいことなのかもしれませんが、自分がどうしたいか、何を求めたいのかということにしっかり向き合って決めただけで、特別な選択をしたという感覚はないんです。HCという特殊な仕事が一段落したからこそ、そう思うのかもしれませんね。(HCは)先頭に立ってチームを指揮して、思いもよらないところからひどい言葉が飛んでくることもあるような仕事ですから」
日本にいれば味わわずにいなかっただろう困難も、多々ある。青年のように悩むことも、無力さに苛まれることも、落ち込むことも日常茶飯事だという。ただ、その中でも己や現在地を見失うことなく、粛々と努力を重ねられていると佐藤は話す。
「若くして海外に渡る人たちは『絶対に結果を残してやる』という気持ちが強いと思いますが、自分は年齢もあってそういうギラギラした感じはないので、『できない自分』を冷静に受け止められると言いますか。『今こういうことが言えたらチームにプラスになれるのに言えないな』とか『自分の中途半端な言葉が選手に影響しているのかな』とか『チームに迷惑をかけているな』とかすぐに分かるし、もどかしいんですけど、おじさんだからこそそういうことに必要以上にあたふたせず、成長の糧と捉えて楽しめるのかなと思います」
佐藤はドイツで得た「成長の糧」の1つとして、コミュニケーションの取り方を挙げた。
「これまで僕は、いろんな根拠を積み重ねて結論に持っていくという話し方をすることが多かったのですが、英語はまず動詞が先にくるし、結論に肉付けをしていく言葉。英語主体で会話する生活を送ることで、『自分ははっきり言い切る力が足りなかったんだな』と気づけました。そういうコミュニケーションを自然と取れるようになったら、また違った50代が見えてくるかなという気がしますね」