中古車店で聞かれた「大丈夫なの?」 経営不振の日産自動車、16年ぶり復活野球部「辞退者ゼロ」の裏側
2025年3月期の連結赤字が800億円に達すると予想されるなど、経営不振が表面化している日産自動車は、2009年を最後に休部していた野球部を16年ぶりに復活させた。1月から練習を続けてきた22人の選手たちは1日、入社式を経て各部署に配属され、夕刻には横浜市の本社で多くの社員に紹介された。昨年秋以降、厳しい経営環境がニュースとなっても、入社を辞退した選手はゼロ。逆風の中で発進した野球部を選んだ選手たちの思いとは。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)

ただ1人の「社会人2年生」石毛主将が感じた世間の風
2025年3月期の連結赤字が800億円に達すると予想されるなど、経営不振が表面化している日産自動車は、2009年を最後に休部していた野球部を16年ぶりに復活させた。1月から練習を続けてきた22人の選手たちは1日、入社式を経て各部署に配属され、夕刻には横浜市の本社で多くの社員に紹介された。昨年秋以降、厳しい経営環境がニュースとなっても、入社を辞退した選手はゼロ。逆風の中で発進した野球部を選んだ選手たちの思いとは。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)
部員22人は新卒が大半。ただ1人だけ、社会人2年目を迎える選手がいる。主将の石毛大地外野手は、筑波大学時代に首都大学リーグで首位打者も獲得した好打者だ。卒業後は、販売会社の茨城日産が所有するチームで野球を続けていた。日産自動車を取り巻く空気が変わってきたことを、部員の誰よりも肌で知る。
「お客様に『大丈夫なの?』と聞かれたりはしましたね……」
茨城日産では、中古車ディーラーの店頭に立ち、販売から保険の書き換えまでこなしていた。昨秋以降は、本社の経営不振を感じる機会も増えた。それでも復活する野球部に飛び込むことを「本当にうれしいなと思っていたんです。半分あきらめていたので」という。
神奈川出身の石毛は、日産自動車が2009年の休部まで横浜市内に置いていた練習グラウンドのすぐそばで育った。休部した時は小学校低学年。筑波大4年次に、部の復活が報じられると「本当かな」と思った。まさか自分に声がかかるとは思っていなかったという。
進学校として知られる県立相模原高の出身。3年生だった2019年の夏、神奈川大会の準々決勝で横浜を倒す番狂わせを演じた。2番・中堅で先発し2安打。小さな挑戦の繰り返しが、大きな成果を生むとよく知っている。「県相(相模原高)出身で、社会人の企業チームで野球をした選手はいないんです。だからできるだけ長く野球をしたい」。新たな道を刻むことが、とことん性に合っている。