松井大輔が忘れもしない15歳の冬 海外挑戦か高校進学か、揺れた「1/2の選択」
早い時期の海外移籍に警鐘「どっちつかずの大人になってはいけない」
輝かしいキャリアを歩んだ反面で、15歳でのあの決断に後悔はないのか。
「後悔がまったくない、といったら嘘かもしれません。あの時、フランスに渡っていたらどうなっていたのかな、と思うことはありますよ。でも、もし移籍していたら、移籍しなかった時の自分のキャリアは経験できなかったわけで、どちらが正解かは誰にも分からない。すべてはその後の自分次第で、僕たちプロサッカー選手は歩んできた道を正解にするしかないんです」
意志ある者に道は拓かれる。それを地で行く男だからこそ、早い時期の海外移籍に警鐘を鳴らすことができる。
「今は僕が若い頃よりも、海外移籍するタイミングが早くなっています。それは日本が欧州のスタンダードに追いついてきた証拠だけど、現実的な選択としての正解は誰にも分からない。例えば、久保(建英)君(マジョルカ)は早くにスペインへ行って、一度日本に戻ってきて再び海を渡った。すでに一定の成功を収めているけど、これはとても稀有な例。多くの場合は日本で教育を受けないことへの不安を伴うと思うし、結果的にどっちつかずの大人になってはいけない」
日本と海外ではすべてが違う。言語だけでなく、習慣や発想など当たり前のことが当たり前ではなくなる。良し悪しではなく、違う。そこで成功の秘訣として挙げたのが、環境への適応能力だ。
「日本では周りを尊重することが大切です。周りに合わせながら、自分の能力を発揮するのが成功への近道でしょう。でも海外の場合は、自分の能力だけで生き抜かないといけない。個性が評価される世界で、個性がなければ普通になってしまう。それは生活もサッカーも両方です。大切なのは、環境や状況に応じて立ち居振る舞いを使い分けることだと思います」
日本と海外でちょうど10年ずつプレーした松井の足跡は、異なる世界で生き抜く術を教える生きた教材となっている。
○松井大輔、新著「サッカー・J2論」発売
松井の新著「サッカー・J2論」(ワニブックス刊)が10日から発売された。試合間隔の短さと移動距離の長さから「世界一過酷なリーグ」とも言われるJ2。「プロなのに練習グラウンドがない」「ユニフォーム交換は自腹」など、環境面で発展途上なところも多い。「ミドルシュート は打たせてもいい!?」など、戦術もJ1と違ってくる。こんなJ2の知られざる裏側、選手の頑張りを、13年ぶりにJ1昇格を決めた横浜FCの元日本代表・松井が初めて語り尽くした。
(藤井雅彦 / Masahiko Fujii)