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「僕は競技場で生存を賭けていた」 皿洗いバイト、奨学金…出場を逃せば次はない「これも五輪のリアル」――陸上・末續慎吾

スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

2003年世界陸上200メートルで銅メダルを獲得し、日の丸を掲げる末續慎吾【写真:Getty Images】
2003年世界陸上200メートルで銅メダルを獲得し、日の丸を掲げる末續慎吾【写真:Getty Images】

「シン・オリンピックのミカタ」#65 連載「あのオリンピック選手は今」第3回

 スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」はパリ五輪期間中、「シン・オリンピックのミカタ」と題した特集を連日展開。これまでの五輪で好評だった「オリンピックのミカタ」をスケールアップさせ、大のスポーツファンも、4年に一度だけスポーツを観る人も、五輪をもっと楽しみ、もっと学べる“見方”をさまざまな角度から伝えていく。「社会の縮図」とも言われるスポーツの魅力や価値が社会に根付き、スポーツの未来がより明るくなることを願って――。

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 五輪はこれまで数々の名場面を生んできた。日本人の記憶に今も深く刻まれるメダル獲得の瞬間や名言の主人公となったアスリートたちは、その後どのようなキャリアを歩んできたのか。連載「あのオリンピック選手は今」第3回は、2008年北京五輪の男子4×100メートルリレーで第2走者を務め、銀メダルを獲得した末續慎吾。日本史上初めてリレー種目でのメダリストの1人となったが、その受け止め方は過熱する周囲の喧騒とは異なるものだった。44歳となった今も現役を貫く、稀代のスプリンターの美学に迫った。(取材・文=藤井 雅彦)

 ◇ ◇ ◇

 末續慎吾は2003年世界陸上パリ大会の男子200メートルで決勝に進出し、20秒38で銅メダルに輝いた。世界陸上において、日本人がこの種目のメダルを獲得したのは史上初の快挙である。

 2001年エドモントン大会に続く2度目の世界陸上挑戦だった。一度は跳ね返された世界の壁をぶち壊した瞬間、自分のことを少しだけ認められるようになった。

「僕はもともと中高生の時、エリート街道を歩んでいたタイプではありません。大学や社会人になってからグッと伸びたタイプ。それに速かったかもしれないけど、日本で速かっただけ。世界に出ると、自分は足が遅かった。でも、もう一度挑んだパリ大会でメダルを獲った時に初めて『オレって速いのかな』と思うようになって。速さに対する水準がちょっとおかしいんでしょうね(苦笑)。きっと自分の中にクレイジーな領域があるんです」

 それまで自己肯定感を高くできなかった理由がある。

 高校時代に両親が離婚した。その翌年に父親が他界。次々とやってきた人生の転機を、思春期真っ只中の高校生が理解して消化するのは難しかった。

 一方で、経済面はリアルを突きつけられる。母親だけに頼るわけにもいかない。自身も収入を得なければ、競技を続けられない困難に直面してしまった。末續は文字通り、寝る間も惜しむ生活を始めた。

「何かしらサクセスなのか、突き抜けたものがないとサポートも入らない世の中と競技です。とにかく競技を続けるためにファミレスの皿洗いで夜中3時くらいまでアルバイトをして、6時に起きて走りました。それを約半年間続けたけど、どんなに若くても眠らないのは体に悪いのは当たり前で、何度も体調を崩した。それ以降は奨学金制度や先輩にお世話になりながら、ぎりぎりのやり繰りで五輪の選考にこぎつけました。苦しくはなかったです。必死でした。苦しいと感じるものは質が違う。その時はとにかく必死で、考える余裕もなかった」

 20歳になった2000年、シドニー五輪に出場し、陸連強化指定選手となったことで競技生活の道が開けていく。

 子どもの頃、テレビのブラウン管の中にいたアスリートは輝いて見えた。その姿に憧れた。間違いなく夢舞台だった。

 自分も同じ場所に立ったけれど、意識はまったく違った。

「シドニー五輪の頃は、ただ生き抜くために走り抜いていた。なんとか現状を抜け出すために、その時の僕にとって五輪は手段だったのかもしれません。アウトローな位置付けで、綺麗なものじゃなかった。世の中の共通のアイコンである五輪に出場しなければ、次はない。これも五輪のリアル、競技者のリアルだと思います」

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