合格者は450人中27名 アジア人初快挙の高野剛、世界最難関のサッカー指導者資格に挑んだ理由
A級とプロの違いは学習と創造する力
一度は日本へ戻り、2009年まではサンフレッチェ広島で活動を続けるが、2010年に意を決して英国へ移住。最初は地元ウエスト・ヨークシャー地方にあるブリッグハウスタウンというアマチュアチームの指導に始まり、やがてハダースフィールド・タウンのアカデミーで評価を固めたことがA級合格への道を切り拓いた。
「とにかくB級の受講終了時に、インストラクターから推薦をもらえないとA級を受けることもできません。私の場合は、最初に指導をしたブリッグハウスタウンの成績向上が評判になり、ハダースフィールド・タウンからオファーを頂き入団。ここでの活動中に当時FA(イングランド協会)のコーチエデュケイターからA級再受講のサポートを受け、最終的に合格に漕ぎつけました」
UEFAのA級ライセンスを取得すれば、プレミアリーグでもコーチとしてベンチに入ることができて、プロライセンスとなれば当然監督を務められる。実際に受講をしてみてA級とプロの相違は、端的に学習と創造だった。
「ピッチ上での指導についての学習は、A級までにすべて終えてしまいます。プロライセンスコースは世界の最前線でリードしていく監督を養成していく場です。『誰かを模範に』と考えた瞬間に、それはもう第一線ではなくなる。過去から学ぶのではなく常に先見性を持って、マネージメントを実践し、リーダーシップを発揮していかなければならない。あくまで世界の最先端で何が起きているのかを把握した上で、その先を行く独自の見解を披歴していく必要がある。だから講義では、テーマを与えられた受講者たちが、それについてディスカッションを徹底する。その繰り返しでした」
前述の通り、学友には現役時代に国際舞台で輝かしいキャリアを築いてきた人たちも少なくなかった。その中で臆せずに自分の意見を主張し渡り合うのはスリリングなことだが、それだけに連日帰宅すると「頭がクタクタになった」という。
「アドリブの連続なので、それまで蓄積してきた経験を見られる。ディスカッションでの発言を振り返り『失敗だった』と思えば落ち込み、逆に『これは言ってやったな』と痛快な気分に浸ることもありました」
まさに毎日が真剣勝負の積み重ねで、そういう生活を18か月間も続けた末の栄誉だった。(文中敬称略)
(加部 究 / Kiwamu Kabe)