「なぜ東大から独立リーグへ?」 大学通算1安打、高橋佑太郎の消えなかった野球愛
進路選択は「他人の尺度や評価で決めるのはもったいない」
高橋には、亡くなった高校の同級生もいる。試合に出られなくても、野球に熱量を捧げ続けられたのは、人生の儚さを感じているからだ。「こんな簡単に終わってしまうのか……と悲しかったですし、物事は全力でやることが大事なんだと」。社会人野球が難しくても、他の道を探ればいい。地域に密着する球団の在り方や、リーグの構造に興味を抱いていたこともあり、この頃に独立リーグへの挑戦を明確に頭に描いた。
この1年前、両親には独立挑戦に関しては反対されていた。ただ、野球を続ける理由や将来についての考えを改めて伝え、応援してもらえた。井手峻監督にも、背中を押してもらえた。
今秋リーグ戦前、練習を運よく高知の関係者に見てもらえており、そこから合格への道が開けた。11月、進路について自身のSNSでも報告。「『東大から何故独立リーグ?』と思われる方も、もしかしたらいるかもしれません」とつづったように、周囲からは興味を抱かれることも多い。
「なぜ? と言われることも結構ありますが、自分の人生は一度しかない。他人の尺度や評価でそれを決めるのはもったいない。自分なりの理由はあるので、なぜと言われることは気にならないですね」
今考えていることは、東大で過ごした日々と変わらず、1日単位でいい選手になるために追究していくこと。NPBに憧れがないわけではないが「そこを見て背伸び、地に足がつかないことをやっても意味がない。出来ることを積み重ねた結果、そこに行けるとなるのであれば考えると思います」。
チャンスを与えてくれた独立リーグの活性化に、将来的に貢献できればとの考えも持つ。6月にはBCリーグ代表の村山哲二氏と対談し、リーグの課題や魅力、可能性について教えてもらった。実際に独立数球団の球場を訪れ、自分の目で感じたこともある。
「構造、在り方を見て、さらに改善できれば日本野球自体がよくなるのではないかと思いました。認知度や、PRも球団によって差がある。そこまで勉強できているわけではないのですが、地域の人が『あそこに集まったら楽しいよね』というものにできたら良いなと」
1月中には高知入りする予定。現在は後輩たちとともに練習を続け、新しい挑戦へ向けて準備する日々を送っている。金銭面のやりくりにほんの少し不安はありつつ「楽しみの方が大きい。お金が欲しかったらこの選択はしていないので。他人がどう思うかより、自分がどこまで行けるかを試したい」と息巻く。
約30分のオンライン取材だったが、迷いを感じる言葉はほとんどなかった。ハングリー精神が求められる環境でも、高橋なら揺らぐことなく邁進し続けられるのではないか。そんな期待を抱かせてくれた。
■高橋佑太郎(たかはし・ゆうたろう)/東大硬式野球部
1999年10月4日、東京都出身。小1の頃、調布メンパースで野球を始める。私立武蔵高では正三塁手になった1年夏に西東京大会ベスト16、3年夏も同ベスト32に貢献。東大では4年春にリーグ戦デビュー。通算9試合に出場した。21年10月、四国アイランドリーグplus・高知に特別合格選手(球団推薦選手)として入団が決定した。本職は三塁手だが、内野はどこでも守れる。遠投90メートル、50メートル6秒6。身長172センチ、体重72キロ。右投右打。
(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)