「僕はきっと立ち直れなかった」 川口能活がサッカー経験ゼロの指導者に救われた日
「常に謙虚であれ」―桜井氏が繰り返し言っていた言葉の真意とは?
「常に謙虚であれ」。桜井氏は事あるごとに、自分に、そしてチームに繰り返し言っていたという。
「サッカーには当然、集中しなければならない。でも選手である前に一人の生徒、人間として、成熟しなければならない。自分を前面に出すのではなく、まずは謙虚な姿勢で臨め、と必ず僕らに伝えていました。本当に厳しい練習でしたが、今ではGKに必要な精神面を鍛えてくれたのだとわかります。僕が天狗にならなかったのも、あの特訓と言葉があったおかげです」
川口が在学中、東海大一中は全国中学校サッカー大会に3年連続で出場。2年時には初優勝を飾った。だが、3年時の大会では3回戦で敗退。川口が審判に抗議したことから相手にチャンスを与え、失点につながった。
「申し訳ない気持ちでいっぱいだった」という川口に桜井氏は意外な言葉をかけたという。
「『あれは、おまえのせいではない』。僕の謙虚さを欠いた態度が原因だったのに、先生はそう言ってくれたんです。それまで負け試合では必ず『おまえが前に出なかったからだ』、『しっかりキャッチしないからだ』と僕ばかりが叱責されていたので本当に驚きました。あの時初めて、ちゃんと僕のことを見てくれたんだな、と先生の愛情を感じました。もしも、あの言葉がなかったら、中学生の僕はきっと立ち直れなかった。桜井先生の言葉で救われ、高校に行ってもサッカーを頑張ろうと思えました」