医師とは違う道を歩んで 東京五輪金メダル候補・楢崎智亜がクライミングにかける理由
「完璧な優勝がしたい」―頂点を目指す男の哲学とは
「最終的には自分の思いです。壁を登らされてる感覚だったり、勝たなきゃいけないというプレッシャーは心と体が一致していない状態。僕もたまにあるんですけど、そういう時には成績は伸びないですし、ケガしてしまったりもしますね」
自らの意思が何よりも優先するという。人にやらされているという感覚では、自分のパフォーマンスには限界があると身をもって感じた。ならば、自身が強い意志をもって目標に向かっていくしかない。
特別なコーチをつけずに、自らメニューを考え、練習に取り組んでいる楢崎。誰かに尻を叩かれる環境ではないが、甘えは微塵も見せない。壁に向かって、ただストイックに課題をこなしていく。
「今は持久力を鍛えているところですね。昨年はリードのトップ選手と勝負してみて、持久力の部分で差を感じた。今はそこに力を入れている。登りこみです。インターバルトレーニングだったり、そういうことをやっている。スピードもボルダリングにも取り組んでいますが、リードにかける時間が1番多くて全体の半分くらいを占めている。1日で20本は登ると思います」
多い日で1日8時間、壁に向かう。オーバーワークにならないように、例えラストの1本で納得できなくても切り替える。「もうちょっと粘れたなと思ったりもしますが、そこを次の練習に生かしてやっています」と翌日のトレーニングへの糧としている。
個人種目。練習から基本的には1人で、孤独な競技だ。「基本的には楽しみたい」と語るが、金メダルを期待されるプレッシャーは計り知れないものがある。何が楢崎の心身を壁に向かわせているのだろうか。
「自分の心と向き合うというか……。メンタルトレーニングなんかをしていくうちに、だんだん頑張っている気がしなくなってきて、遊んでいるような感覚になってきました。楽しく遊びながら強くなっているじゃないですけど、最近は全然辛いと感じなくなってきたんです。毎日、長時間練習していても楽しくて仕方がないです」
こう語って白い歯を覗かせる姿は実に爽やかだ。最後に東京五輪に向けて問うと、寸分の迷いもなく力強い答えが返ってきた。
「完璧な優勝がしたい。どの競技でも1位を狙えるような実力をつけていきたい。現時点だとまだ難しい部分もあるんですけど、そこを狙えるようにオリンピックまで実力をあげていきたいです」
難しい課題ほど燃える――。金メダルという頂へ、人生を左右する選択が間違っていなかったことを証明する舞台はもうすぐ、来る。
(THE ANSWER編集部)