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働き方改革と部活指導は両立できるか 夏休み中に“公式活動”がない米国の運動部

変形労働時間制が導入されたら、夏休みの運動部活動はどうすべきかを提案

 だからといって、米国の学校運動部に所属する中高生たちは、夏休み中は何もやっていないわけではない。民間のスポーツクラブやコーチが提供する合宿や日帰りの練習に、個人で申し込みをし、トレーニングする。また、サマーリーグと呼ばれるリーグ戦もある。これは、夏休み期間だけ一時的にチーム編成をし、リーグ戦を行うものだ。これらのメリットは、中高生が学校の枠組みを離れて、それぞれのやりたいことや課題に向き合え、競技力向上につながること。デメリットは、民間提供の合宿やサマーリーグは、学校の運動部に比べて費用が高いこと。保護者の経済状況が厳しいと、このようなプログラムには参加できない。

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 民間提供の合宿練習やサマーリーグ以外にも、高校生たちが自主的に練習している姿をよく見かける。米国の公立校では、夏休みのため学校が完全に閉まっている期間であっても、グラウンドにはアクセスできるようになっている学校が多い。そこに集まって練習している。もしくは、民間のジムに申し込み、グループ・トレーニングなどをしている。まったくの個人で練習していることもあれば、新高3生が中心となり、運動部内の希望者を募り、運動部単位で自主練習をしているケースもあるようだ。怪我などの発生時に保護者が責任を負うことになる。(もし、民間のジムに施設の不備があり、それが原因で怪我が発生すれば、ジムに責任があるだろう)

 というわけで、もしも、変形労働時間制か導入されたとしたら、もしくは長期閉庁期間が設けられるとしたら、夏休みの運動部活動はどうすればよいのかを提案したい。夏休みに主要な公式戦のある日本では実現は困難かもしれないが。

 各運動部で、主要な公式戦終了後は1週間から2週間ほど、公式な活動を一時的に停止する「ブラックアウト」とするのはどうだろうか。この活動の一時停止は、教員の変形労働時間制導入、または閉庁期間に伴い、夏休みにまとめて休みを取得するためのものである。だから、運動部員たちが自主的に練習することは禁止しない。民間のスポーツ合宿や、部員仲間と相談し、自主的に練習はしてもよい。もちろん、休養にあてたり、他のことに取り組んだりしてもよい。このときの責任の所在は保護者にあるが、学校や市区町村は、練習スペースの提供は配慮する、という条件をつけてもよいかもしれない。

 自主トレとは名ばかりで、結局は、教員である顧問の号令のもとに活動しようというぬけがけも起こることだろう。それに備えて、どこまでが自主的な練習で、どこからが号令のもとでのほぼ強制的な練習なのかの線引きをあらかじめ行っておくのがよいのではないか。

 米国でも、運動部のコーチが夏休み期間の自主練習をお膳立てをサポートすることはある。自主的か公式な活動とみなすかどうかは、
 1.「自主練習」に参加することをコーチが義務付けない。
 2.「自主練習に参加しないと出場時間が減る」などとコーチは不利益になることをほのめかさない、などだ。
 
 中学生が1週間でも自主的に活動するのは、簡単なことではないだろうから、多少、保護者がサポートする必要はあるだろう。しかし、高校生ともなれば、案外、自分たちでいろいろなことを決めて、実行することができる。教員の休暇期間を、生徒が自主的に運動部を運営する期間にしていくというイメージを描くのは、私が楽観的過ぎるのだろうか。

(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)

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谷口 輝世子

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。近著に『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのか――米国発スポーツ・ペアレンティングのすすめ』(生活書院)ほか、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。

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