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「プレーする喜び」をいかに伝えるか 町クラブの試合で聞いたユニークな“叫び声”

試合前後にセンターラインに整列、肩を組んで叫び合う

 時に厳しい指示を出す指導者はいる。でもそんな時も「なぜそうした方がいいのか」「なぜ今選択したプレーだと味方が困るのか」という説明がされる。自分たちが取り組んでいる段階があり、進んでいく道筋があるから、子供も耳を傾ける。そして子供の人間性は絶対に否定しない。

「何やってるんだ!」「そんなんだからダメなんだ!」「何が悪いかくらい自分で考えろ!」という声はコーチングでも、激励でも、発奮を促すものでもない。ただの大人の八つ当たりだと僕は思っている。

 子供たちの試合に話を戻そう。

 キックオフ前にセンターラインに整列をしている。すると急に、両チームの子供がそれぞれ肩を組み出した。「あれ、何をするんだろう?」と思って見ていると、まず片方のチームの子供たちが「俺たちは○○! 今日の試合は絶対勝つぞ!」と声を揃えて叫んだ。すると次は反対のチームが「俺たちは△△! いつでも全力プレー!」と返した。

 子供たちはそうやって自分のクラブへのアイデンティティを獲得し、そこでプレーすることの喜びを感じる。試合であるから対戦相手がいる。彼らの思いに触れることもできる。

 そして面白い取り組みだなと思ったのは、試合前だけではなく、試合後にも同じように叫び合うのだ。試合であるから誰もが勝ちたい。誰もがそのために全力でプレーする。誰だってそうだ。

 でも勝ち負け以上に大切なことがある。それは本やネットから仕入れる情報としてではない。子供たちが無意識的にもその大切さに触れあい、日々培われていく環境があるべきなのだ。仲間と肩を組み大きな声で叫ぶ子供を、遠くからとても温かい目で眺めている指導者と保護者の姿がとても印象的だった。

【了】

中野吉之伴●文 text by Kichinosuke Nakano


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中野 吉之伴

1977年生まれ。ドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを保持する現役育成指導者。ドイツでの指導歴は20年以上。SCフライブルクU-15チームで研鑽を積み、現在は元ブンデスリーガクラブであるフライブルガーFCのU12監督と地元町クラブのSVホッホドルフU19監督を兼任する。執筆では現場での経験を生かした論理的分析が得意で、特に育成・グラスルーツサッカーのスペシャリスト。著書に『サッカー年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)、『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)がある。WEBマガジン「フッスバルラボ」主筆・運営。

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