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パスの出し手と受け手の理想形 元W杯戦士も唸る「ハート・トゥ・ハート」理論

浜本の信念「相手の心を感じ取れなければ、良いパスワークは生まれない」

 浜本が子供たちを思いやるように、パスも受け手の気持ちを読んで送る。それが持論だ。

 元日本代表MFの森島寛晃は、鮮明に覚えている。

「パスは思いやり。片想いの気持ちを伝えるように、ってよく言っていました」

 今でも森島は、正月になると家族で浜本邸を訪れ、酒を酌み交わすと安心して居眠りをしてしまうそうだ。

 最近まで大河FCは、全員が坊主だった。ある時、浜本は子供たちに聞いた。

「どうだ、お前たち、モテるか」
「モテな~い」

 子供たちの声が揃ったのを聞いて、浜本が話し始める。

「いいか、お前たちがモテないのは坊主だからじゃないぞ。女の子は、男の子の見てくれじゃなく、一生懸命頑張っている姿に魅かれるんだ。でも例えば、浜本くんが好きや、というサインを感じ取れなければ話にならない。サッカーも同じだぞ。パスの出し手と受け手は、ハート・トゥ・ハートの関係でなくてはならない。相手の心を感じ取れなければ、良いパスワークは生まれないんだぞ」

 観察力と巧みな話術。相手の状況を察知して、適切な一手を打つ。

「あれだけいろんな人たちを魅きつける。僕もあんな人になりたいですよね」

 森島の弁である。

(文中敬称略)

【了】

加部究●文 text by Kiwamu Kabe


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加部 究

1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近、選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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