「Jのない県」からJを目指して― ある地方クラブの奮闘記「共に創るクラブの未来」
全てのクラブ関係者を「奈良クラブ一味」と呼ぶ理由
奈良クラブでは、自分たちスタッフを含む全てのクラブ関係者を「奈良クラブ一味」と呼んでいる。今シーズン開幕前の新体制発表会において、奈良クラブ代表取締役社長・中川政七の口から語られたこの言葉は、チームはもとより、サポーター、支援してくださるパートナー企業(奈良クラブではスポンサーのことをパートナーと表現する)、ホームタウンである奈良県下の各自治体、メディアといった、クラブに関わりのある、ありとあらゆる人・企業・団体などを総じて定義する表現である。
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その根底には、いわゆる「店」と「客」という一元的な関係を超え、クラブのビジョンや価値観に共感した上でその実現に力を貸してほしい。共にクラブを作っていって欲しいという思いがある。
「一味」という呼称を使い始めたのは今季からだが、「一味であること」を意識し、それを体現してもらえるような具体的な企画も始めている。例えば、5月に開催されたソシオ会員限定イベント「一味で考える、集客ワークショップ」。会員限定アプリにおけるサポーターの投稿をきっかけに実現したこのイベントは、参加者が数人ずつの班に分かれて、ホームゲームの集客増を目標とした取り組みを考え、実際に実施するというもの。
SNSを利用し、枠を超えた情報拡散を狙った企画や、実際の試合を撮影できるカメラマン体験企画など、ファン目線のユニークな企画がいくつも立ち上がり、フロントスタッフも協力しながら実現までこぎつけていった。自分自身が熱心な部類のサポーターだったため、サッカーファンの持つクラブへの高いロイヤルティ(忠誠心)は理解していたつもりだったが、積極的に企画に取り組んでくれるサポーターの姿に大いに胸を打たれたと共に、ファンベースの取り組みが持つ可能性を感じられる機会となった。
また一方でクラブへコミットする機会を創出することにより、未来のファン・サポーターを生み出す活動にも取り組んでいる。地元の国立大学・奈良女子大学の協力の下、中川社長を講師にした授業を実施。通称「奈良クラブゼミ」と呼ばれたその授業では、奈良クラブのホームゲームを題材に、新規ビジネスを企画・運営する実践的カリキュラムが組まれた。ゼミ生が運営した「#Nペ」というボディペイント企画はスタジアムでも大好評で、試合を多いに盛り上げる一因となった。