「Jのない県」からJを目指して― ある地方クラブの奮闘記「共に創るクラブの未来」
サッカーの存在は身近になっても、意外と知られていないクラブの舞台裏。誰がどんな思いを持って、支えているのか。「THE ANSWER」の連載「『Jのない県』からJを目指して―ある地方クラブの奮闘記」は、元スポーツ紙記者の奈良クラブスタッフ・山川達也さんが地方クラブのリアルな実情を紹介する。第2回は「共に創るクラブの未来」について。
JFL奈良クラブの“中の人”が「サッカークラブのリアル」をレポートする連載
サッカーの存在は身近になっても、意外と知られていないクラブの舞台裏。誰がどんな思いを持って、支えているのか。「THE ANSWER」の連載「『Jのない県』からJを目指して―ある地方クラブの奮闘記」は、元スポーツ紙記者の奈良クラブスタッフ・山川達也さんが地方クラブのリアルな実情を紹介する。第2回は「共に創るクラブの未来」について。
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2019年の日本フットボールリーグ(JFL)は折り返しを迎え、束の間の中断期間に入った(再開は8月下旬)。とはいえクラブによっては国体予選や天皇杯などの試合を控えており、選手もクラブスタッフも忙しい夏を過ごしている。J3昇格を目指す奈良クラブは、第17節を終えて16クラブ中12位。昇格条件の一つである4位以内(かつJリーグ百年構想クラブのうち上位2位)との、勝ち点差は8である。例年になく混戦が続くリーグということもあって、2桁順位にあっても、クラブ関係者は誰一人望みを捨てず、後半戦に向けてしっかりと準備を続けている。
話は脇道に逸れるが、記者時代から「クラブ関係者」という単語が、具体的に一体誰までを指す言葉なのかと疑問に思っていた。いざ自分自身が「クラブ関係者」になってみて、クラブに関わっている人間の多さに驚いている。今回のテーマは、そういったクラブを取り巻く人々をいかにして巻き込んでいくのかに焦点をあてた。
去る7月28日。中断前最後の試合を終えた翌日、杉山弘一監督と林舞輝GMは、古い町並みが残る「ならまち」の茶屋にて、十数人の奈良クラブ関係者と共に、一杯の器に注がれた抹茶を回し飲みしていた。実はこの会は、監督、GMと共に前半戦を振り返ろうというトークイベント。参加者は熱心なサポーターから地元メディアやパートナー企業の担当者まで、様々な立場からクラブに関わりをもっている方々だ。監督・GMがそういった人々と「濃茶」と呼ばれる濃い抹茶の回し飲みをしていたのには、目的があった。
茶道における「一味同心」の実践。「一味同心」とは「皆で同じ味をたしなめば、同じ心になれる」という茶道における概念だ。かの千利休も、豊臣秀吉と家臣に対し、一体感を高めるためにふるまったと言われている。立場は違えど、同じ器でお茶を飲んだ我々は「一味」であり、共にクラブを良い方向に導く存在であってほしい。このイベントにはそういった想いが込められていたのだ。