「五輪決勝はケンと戦いたい」 空手界に君臨する“レジェンド”と“プリンス”の物語
2008年11月、東京・日本武道館。福岡から兄とやってきた12歳の少年は、ある1人の空手家に目が釘付けになった。アゼルバイジャン出身のその空手家は、身長168センチと小柄な体格ながら、2メートルはあろうかという大男たちを次々とちぎっては投げ、ちぎっては投げ、第19回世界空手道選手権大会の組手70キロ級と無差別級で2種目制覇の偉業を成し遂げた。
世界大会を5度制した西村拳とアガイエフの出会い
2008年11月、東京・日本武道館。福岡から兄とやってきた12歳の少年は、ある1人の空手家に目が釘付けになった。アゼルバイジャン出身のその空手家は、身長168センチと小柄な体格ながら、2メートルはあろうかという大男たちを次々とちぎっては投げ、ちぎっては投げ、第19回世界空手道選手権大会の組手70キロ級と無差別級で2種目制覇の偉業を成し遂げた。
まるで漫画の世界だ――。
現実のものとは思えない衝撃の戦いぶりに、少年は一気に心を奪われた。中学1年生だった少年はもちろん、日本武道館を訪れた観客すべてを魅了した男の名は、ラファエル・アガイエフ。34歳を迎えた今でも、組手75キロ級で世界トップの一人として君臨する“レジェンド”だ。
当時「そんなに空手が好きじゃなかった」という少年は、福岡に帰るやいなや空手に没頭。インターネットで動画を検索したり、DVDを買って見たり、鏡の前でアガイエフの構え方を真似てみることもあった。メキメキと頭角を現した少年は、高校で日本一になると、大学では団体ながらアジア選手権で優勝。そして、大学3年だった2016年、KARATE1プレミアリーグのハンブルク大会で世界初制覇を果たして以来、世界大会を5度制覇する。今や、空手界のプリンスと呼ばれ、東京オリンピックで金メダルに最も近いと言われる、このかつての少年こそ、組手75キロ級世界王者の西村拳(チャンプ)だ。
「空手オタクだった兄に連れられていった世界空手で、ボンヤリ会場を歩いていた時に、パッと目がいった選手がいたんです。それがアガイエフでした。アグレッシブで生き生きとした戦いをする上に強い。さらに、誰もしていなかったような技を繰り出す。今ではルール上禁止されているんですけど、柔道でいう一本背負いみたいな投げ技で、2メートルの巨人を投げまくるんですよ。その姿がすごくて、とにかく格好良かったですね」