「リスク覚悟」で起用し育てられた 三河の生粋のPG熊谷航、競技人生を救った兄の涙
試行錯誤し、プロの舞台で日々成長…トンネルも抜けた
インカレ終了後の12月20日、熊谷は特別指定選手としてシーホース三河に加入。23日の新潟アルビレックスBB戦で、満員のウイングアリーナ刈谷でお披露目された。「観客の数が多かったので、緊張しました。フワフワしていて、あまり良いパフォーマンスはできなかったですね」。わずか14秒であったが、大学とプロとの違いを体感した。
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その後しばらくはプレータイムに恵まれなかったが、持ち前の分析力でコートの外から学び、チャンスに備えた。そうして迎えた1月4日のレバンガ北海道戦。熊谷は22-22の同点で迎えた第2クォーターからコートに立つと、開始3分半に3ポイントシュートを沈めてプロ初得点をマーク。22分間コートに立ち、15得点を挙げて勝利に貢献した。
「得点源である金丸(晃輔)さんが(欠場して)いなかったので、ルーキーらしく積極的にシュートを打っていこうと臨みました。1本目は外しましたが、相手がシュートはないだろうという感じのディフェンスをしていたので、ディフェンスを寄せるためにも、思い切って打っていきました。
シュートに関しては努力をしてきたので、自信を持っています。初得点は嬉しかったですけど、それよりも拮抗した展開だったので、一人だけ喜んでいたらいけないとすぐにディフェンスに入りました。このサイズ(173センチ)なので、まずはディフェンスを人一倍やらなければいけないですし、ディフェンスは自分のストロングポイントなので」
しかしルーキーといえど、PGである以上、求められるのは自身の得点だけではない。熊谷もそのバランスに苦慮した。「北海道戦の時はただがむしゃらに、思い切りできていたんですけど、やはりPGというポジションなので、誰がシュートが当たっているかとか、この時にはどういうセットプレーがいいのかを考えながらやっている中で、少し自分のプレーに迷いが出てきています。でもこれはガードとしての次のステップというか、1段階成長できていると前向きに捉えています」(3月13日の三遠ネオフェニックス戦後コメント)
トンネルを抜ける日は突然やってきた。続く3月16日の千葉ジェッツ戦、前半の20分間で31点のビハインドを背負い、苦戦する中、熊谷は千葉の武器である速攻を止めてディフェンスから流れを変えると、オフェンスでも積極的にリングにアタック。キャリアハイを更新する16得点を挙げて、後半は互角の戦いに持ち込んだ。
「先輩たちで出られない人がいる中で、出させてもらっているので、だらしないプレーはできない。1秒でも1分でも出たら全力でやらなければならない」とおおよそ大勢が決した後も、気持ちを切らすことなく戦い続けた。その姿を評価した鈴木HCは、開幕からスタメン出場を続けてきた生原秀将に代えて、翌日のGame2で熊谷を抜擢する。試合は95-74で敗れたものの、熊谷は初先発にも関わらず落ち着いたプレーで11得点6アシスト3スティールを記録。マッチアップした日本代表PGの富樫勇樹をわずか2得点に抑えて、指揮官の期待に応えた。