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沿道からの“予想外の声”に号泣 ケガにも泣いた19年、「もうダメかも」の迷いを消し続けられたワケ――競歩・岡田久美子

東京世界陸上女子20キロ競歩でゴールする岡田【写真:森田直樹/アフロスポーツ】
東京世界陸上女子20キロ競歩でゴールする岡田【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

最後に飛び込んできた“予想外”の言葉

 25年9月、東京世界陸上女子20キロ競歩の舞台に、岡田は立った。しかし残り1周、夢だったメダルも、入賞も厳しいことを悟る。気持ちを「メダル獲得」から「レースを楽しむ」ことにスイッチした。

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「沿道には馴染みのあるたくさんの人たちが応援に駆けつけてくれました。これが本当に、競技人生最後のレースになる。最後の1周くらいはみんなの顔をちゃんと見て、声を聞いてゴールしたいと思いました」

 高校、大学のチームメートに、幼馴染や知人、そして家族。一人ひとりの顔を見ながら一歩一歩、踏みしめた。

 そして、いよいよロードから競技場へと向かおうという時だった。

「岡田さーん! これまでありがとー!!」

 思いもよらぬ言葉が耳に飛び込んできた。驚きで、涙が止まらなくなった。

「頑張れ、という言葉は今までたくさんかけていただきました。でも、最後の最後に『ありがとう』なんて、言われると思っていなかった。ビックリして超泣いてしまい、呼吸もうまくできなかった」

「ヤバい、思い出しても泣きそうになる……」。岡田は目を潤ませながらも「私の号泣ポイントは二度ありまして」と、楽しそうな様子で最後のゴールを振り返った。

19年間、選手として生きた岡田。次なる夢は【写真:松橋晶子】
19年間、選手として生きた岡田。次なる夢は【写真:松橋晶子】

 一度目は、『ありがとう』の言葉を心に受けとめながらゴールした瞬間。そして二度目は銅メダルを首にかけた藤井菜々子(エディオン)の姿を認めた時。日本女子競歩、世界大会史上初のメダル獲得。その夢が実現したことを知った。

「藤井さんが駆け寄り、私にメダルをかけてくれたことにもビックリしました。しかも、『岡田さんがいたから、ここまで来れました』と言葉をかけてくれた。その言葉は、私もゴールしたら絶対、藤井さんに言おうと思っていたんです。『藤井さんのおかげで私は最後まで頑張れた』って」

 19年のアジア大会から、代表選手として共に歩んできた。その藤井と同じ気持ちでいたことに、言葉にならないほど感極まった。止まらない涙にかき消されぬよう、必死に同じ言葉を返した。

「泣いていてうまく言葉にならないし、会場の音も大きかったので、もしかしたら藤井さんには聞こえなかったかもしれない。でも、一生懸命、伝えました」

 高校時代から将来を嘱望された。大学卒業後は周囲の期待を背負い、日本女子競歩を牽引してきた。だが、ケガを繰り返すなど、「もうダメかもしれない」と思うことは何度もあったという。

「でも、『自分は弱い』『まだまだだ』という気持ちをずっと持ち続けていたからこそ、強くなる努力を続けられた。最後の最後まで、世界でメダルを獲りたいっていう気持ちを持ち続けて、ストイックに、信念を貫き通したことは誇りに思います」

 19年間、選手として生きた。これからは、誰かを支える形で競歩に携わっていきたいと話す。

「いろいろありましたが、人との出会いに恵まれた競技人生でした。苦しい時は必ず、誰かが手を取り、すくい上げてくれた。そのおかげで、34歳まで第一線で、競技を続けることができ、幸せに思います。

 今はまだ、女子選手を教える女性の指導者が少ない。競技だけでなくジュニア期から体や心の悩みにも寄り添えるよう、今後は指導者を目指して、しっかり学び、経験を積みたい。そしていつか、世界に通用する競歩の女子選手を育てたいです」

 小学生の時、シドニー五輪で見た女子マラソンの高橋尚子に憧れ、五輪を目指した。次は世界の舞台を夢見る子どもたちに、諦めず、挑戦し続けることの素晴らしさと誇りを受け継いでいく。

■岡田久美子 / Kumiko Okada

 1991年10月17日生まれ、埼玉県出身。熊谷女子高入学後、競歩を始める。立教大を経て、2014年にビックカメラ入社。15年日本選手権の女子20キロで初優勝すると、翌16年のリオデジャネイロ大会で五輪初出場を果たした。22年、前年に結婚した夫・森岡紘一朗氏(12年ロンドン五輪競歩男子日本代表)がコーチを務める富士通に移籍。25年9月の世界選手権を最後に引退した。現役時代の主な成績は日本選手権女子20キロ競歩7度優勝、18年アジア大会女子20キロ競歩3位、世界選手権6大会連続代表入り(最高位は19年ドーハ大会の6位入賞)。五輪は20キロで16年リオデジャネイロ大会(16位)、21年東京大会(15位)、男女混合競歩リレーで24年パリ大会(8位)に出場。美しいフォームにこだわり、警告3回で失格となる競歩において一度も失格することなく現役を退いた。5000メートル、1万メートル、35キロ、10キロ競歩の日本記録保持者。

(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

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長島 恭子

編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。人物インタビュー、ヘルスケア、ダイエット、トレーニングの分野を軸に、雑誌、書籍等で編集・執筆を行う。担当書籍に『すごい股関節』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。

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