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陸上部が廃部…突然打診、返事は「明日の昼までだ」 ドン底から箱根常連校へ、強化した名将の転機――帝京大・中野孝行監督

練習で選手に声をかける中野監督【写真:帝京大駅伝競走部提供】
練習で選手に声をかける中野監督【写真:帝京大駅伝競走部提供】

2年で予選を突破した強化策「大事なことは…」

――2年で予選会を突破した強化策というのは、どういうものだったのですか。

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「基本的に、夏合宿が終わって、出雲、全日本が終わるまではレースにはあまり出さなかったです。2007年に入学してきた西村(知修)という選手がいたんですが、彼は1年生の時、関東インカレで1500m1本に絞り、その後、6月に5000mを1本走り、夏合宿を終えて、そのまま箱根の予選会に臨みました。10000mの記録がなかったので、日体大記録会に出て29分44秒を出し、箱根駅伝までわずか4本のレースで箱根の本大会に出たんです。そこで7区3位で走りました。大事なことは練習をしっかりとやるということ。記録会に出たらタイムが出るのは分かっていたんですが、そこで満足してもらっては困るんです。我々の目標は箱根駅伝でトラックではない。学生も箱根に出たいと入学してくるので10000mのレースに調整して、箱根でコンディションが落ちるのは本末転倒なわけです。今回、楠岡(由浩・3年)が10000mで27分台を出しましたが、あれだけ練習をすれば出るのは分かっていました。楠岡も狙って出したわけではないので、そんなに騒ぐことじゃないと思いますよ(笑)」

――監督は、選手を勝たせたいよりも自分が勝ちたいと思う気持ちが強く出てしまうことはありますか。

「自分が選手よりも勝ちたいというのはないですね。ただ、選手には勝てる選手になってほしいなと思っています。なぜかというと、私が高校時代の時、北海道大会で5000mの予選を突破したことがなかったんです。一度も決勝に出たことがなくて、悔しかった。それに勝てば勝手に記録が出るじゃないですか。タイムを狙うよりも勝つことを意識して走った方がいい結果が出るので、そこは今の選手たちにも意識させています。ただ、それを押し付けてはいけない。選手自身が勝ちたいと思うように指導していくのが大事ですね」

――今季は、10000mで27分台がどんどん出るようになりました。

「確かに記録は出ているけど、多くは引っ張られての記録で本当の強さなのか、疑問に思います。私は、選手に常々、駅伝はひとりで走れるようにならないダメだよって伝えています。厚底の影響でいいタイムが出るけど、下駄をはかせてもらってタイムが出ているのを分かっているはずなのに自分の力だと思い込んでいる。最近は、これじゃダメだと分かって自分でペースアップしている選手が出てきているけど、それに気づくかどうかで、その先の伸び代が変わってくると思います」

 チーム作りの上で欠かせないのがスカウティングだが、中野監督は独自の視点で選手を見極めている。それは競技力が高い選手は他校に獲得されてしまうがゆえに、伸びていく可能性を秘めている選手を判断する術でもある。長くスカウティングをしてきた経験に裏打ちされた確かな眼が星岳など世界で活躍する選手を生んでいる。

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佐藤 俊

1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。

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