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“ブライトンの奇跡”再現は幻「5mが…」 世界最強・南ア戦、7人の証言から浮かぶラグビー日本代表の課題

わずか「5m」が勝敗に大きく影響した【写真:JRFU】
わずか「5m」が勝敗に大きく影響した【写真:JRFU】

わずか「5m」が勝敗に大きく影響

 キックコンテストの“格差”については、試合2日後にダブリンで取材に応じたSH福田健太(東京サントリーサンゴリアス)がこう指摘した。

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「試合の後に9番(SH)だけのミーティングをしたんです。基本的にハイパントは18m、20m先に落とすことを練習していますが、南アフリカは短めで15mくらいに蹴って来た。この距離だと、チェイサー(ボールを追う選手)はPRだったり、密集周辺の選手もジョギング程度の走りでも行けるところに落として、WTBが競り合いでタップしたところに多くの選手がいる状況が見られた。なのでミーティングでは、キックはもう少し短くていいんじゃないかと話し合った」

 キックからのファンブルボールを、日本より南アフリカが確保出来ていたのは、反応や立ち位置も影響した一方で。キックの落とす位置が差を生んでいたのだ。勿論、これが全ての敗因ではないものの、わずか「5m」が勝敗に大きく影響していた。福田の分析が続く。

「今までのセオリーなら20mくらい、4秒(キックの落下時間)がいいキックだったが、9番のキックに求められる距離が変わってきている。自分たちでクリーンにキャッチ出来ればベストですが、南アフリカ戦で学べたのは、タップされたりする中でより多くの選手がどこに転がるか分からない楕円球を予測しながら、チェイスすることが大事になってくるということだと思います」

 これは、代表メンバー個々の能力や判断力だけではなく、日本ラグビーに突き付けられた“宿題”と考えるべきだろう。エディーの言葉だ。

「空中戦は完全にやられてしまった。完敗です。日本国内では、そういうキックを使ってコンテストするプレーがあまり行われていない。それが、このゲームで顕著に表れてしまった。スキルだけじゃなくて、戦術面でもまだ未熟なところがある。でも、そこをやり続けなければいけない。南アフリカはキックの競り合い、精度も高いし、ずば抜けたスキルを持っている。そこに、こうやって経験を積み重ねることで、チームも選手個人も進化していかなければいけない」

 国内のラグビーに目を向ければ、スタイルの差はあれ、どのチームもキックよりもボールを動かしトライを目指すスタイルでファンを楽しませている。こんなラグビースタイルが定着、成熟して、ゲームが成立し、選手も観客も求めている現実を考えれば「何が悪いんだ」という疑問もあるだろう。

 世界でも、日本と対戦したどの相手も、外国から来た選手、チームも日本のアップテンポでボールを展開するラグビーを称賛している。ボールを素早く、パスで動かしていくラグビースタイルに文句をつける声は、取材をしていてもほとんど聞くことはない。だが、その一方で冷静に日本以外のチームを見渡せば、事はそう安易な話ではないことも分かる。日本のラグビーは、理想論で考えれば「いいラグビー」という評価だろう。

 だが現実論、つまり勝負に勝つために必要な戦術、ラグビースタイルという観点から見れば、日本流が「正解」だと考えている国(チーム)は世界でも少ない。「いいラグビー」と「勝てるラグビー」は別物だ。それは、ワールドカップで8強に進むようなチームのラグビースタイルを見れば答えが出ている。

 勿論、自分たちのテンポを掴み、相手ギャップを創り出せれば、日本のようなオープン展開からアウトサイドBKがトライを決めるチームはある。だが、どのチームもそこまでのプロセスではフィジカルバトルで優位に立ち、日本に突き付けられたハイボールのコンテストを制して、ようやくチャンスボールを手にしてトライに結び付けている。肉弾戦のようなゲームはラグビーが生まれた時からこの競技の基本だ。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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