壊された固定観念「なぜ審判は笛を?」 目指す世界一、日本で広めたい「耳が聴こえない人」のラグビー

“もう一つのワールドカップ”に日本ラグビー協会も支援に前向き
これまで多くの大会や試合でレフェリーが笛を使っていたことを考えれば、柴谷だけではなくデフラグビー界自体が固定観念に囚われてきたという現実もある。そのため、来年の東京での大会では、レフェリーは笛ではなくフラッグを使ってジャッジすることが決まっている。先にも紹介したように、ウェールズらヨーロッパの強豪には聴力レベルが高い選手が多いこともあり、国際会議ではレフェリーが笛を使わない「フラッグ制」の導入は反対される可能性もあった。だが、日本側の“戦略”もあり来年の世界大会での導入が実現することになった。
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「日本では、理解のある企業が所属するデフラグビーの選手に助成金を出してくれています。そして来年の大会も、そういった企業の協力を受けています。僕らの連盟でも『ラグビーを通しての平等』というものを活動理念として揚げていて、それを基に企業から理解と支援を受けている。なので、もし日本大会が笛だけのレフェリングという、一部選手に不平等なルールで行われるのなら、理念に賛同していただいている企業からの宿泊費などの支援が受けられなくなる。そんな文章を各国の連盟に送ったんです。そうすると、従来は笛で行われてきたこともあるので反対されると思っていたのですが、会議に参加した理事長によると、結構すんなり通ったようです。勿論、そこには重度難聴者が多い国の支持があったのも事実です」
聴覚障害が重度な選手もいる日本にとっては、笛ではなくフラッグを使ったレフェリングの採用は歓迎されることだ。だが一方で、それに伴うホスト国としてやるべき課題も浮上している。デフラグビーでは専門のレフェリーがいないため、ラグビー協会とレフェリーグループとも相談しながら通常の試合で笛を吹いているレフェリーの派遣をお願いすることになる。
「日本開催の大会では日本のレフェリーが受け持つことになるのですが、デフラグビーに関する知識や、手話が出来る人もほぼいないです。なので相当難しい状況です。日本大会では若いレフェリーが中心になると思われます。基本的なレフェリングはデフでも同じですが、彼らにこれから1年かけてデフラグビー特有のジャッジややり方、フラッグ制ももちろんですが、手話も学んでもらって育成していくことも必要なのです」
その一方で、法人こそ違うがラグビーを統括する日本ラグビー協会(JRFU)も支援には前向きだ。岩渕健輔専務理事は“もう一つのワールドカップ”について「私たちはラグビーをいろいろな形でプレーされている皆さんと協力しながら、ラグビーそのものを前に進め、発展させたいと思っています。2026年の大会についても、当然のことながら協力させていただきたい」と語っている。9月の強化合宿には元7人制日本代表HCやナショナルチームディレクターなどを歴任した徳永剛氏も指導に駆け付けたが、以前は協会からの派遣という形だったが、今は個人の身分で協力をしているという。決勝も含む上位対戦については、聖地・秩父宮ラグビー場の使用もJRFUも交えて検討を進めている。日本ラグビーの殿堂が世界一を争う舞台になれば、海外選手も含めてデフラグビープレーヤーにとっても大きなモチベーションになるはずだ。
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