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壊された固定観念「なぜ審判は笛を?」 目指す世界一、日本で広めたい「耳が聴こえない人」のラグビー

聴覚障害を持つ選手によるデフラグビーの日本代表が、来年日本で開催される「7人制デフラグビー世界大会」で優勝を目指して強化を進めている。前編では自身も代表選手としてプレーした柴谷晋ヘッドコーチ(HC)の、コミュニケーションを重視したチーム作り、チームの取り組みを紹介してきたが、後編では強化の中で得た学び、そして選手たちの世界大会への思いを聞いた。(前後編の後編、取材・文=吉田 宏)

柴谷HC(奥右)も手話を使えるが、練習では常に手話通訳付で行われる【写真:吉田宏】
柴谷HC(奥右)も手話を使えるが、練習では常に手話通訳付で行われる【写真:吉田宏】

聴覚障害を持つ選手による日本代表「クワイエット・ジャパン」の挑戦【後編】

 聴覚障害を持つ選手によるデフラグビーの日本代表が、来年日本で開催される「7人制デフラグビー世界大会」で優勝を目指して強化を進めている。前編では自身も代表選手としてプレーした柴谷晋ヘッドコーチ(HC)の、コミュニケーションを重視したチーム作り、チームの取り組みを紹介してきたが、後編では強化の中で得た学び、そして選手たちの世界大会への思いを聞いた。(前後編の後編、取材・文=吉田 宏)

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 自分自身はデフラグビー選手について理解していると考えてきた柴谷だが、チームを強化する中で選手たちから気付かされたものも少なくないという。

「ある国際大会でサモアと対戦する前のことです。初対戦だったので、サモアがフィジーと対戦したビデオを観ていたのですが、ふと気付いたことがあった。レフェリーが笛を使っていなかったんです。代わりに旗を持っていた。この試合を会場で観戦していた選手がいたので聞いたら『そうですよ。でも全然問題ないです』と教えてくれた。彼は『何で他の国際大会で笛を使っているのか理解出来ない。(選手は)聴こえないのだから』とも話していたんです。びっくりしましたね。レフェリーというのは笛を使うものだとずっと思っていた。僕がデフラグビーを始めたのが26歳だった。なので20年くらいやっていますけれど、笛という固定観念があったんですね。でも、選手の一言を聞いて、そうじゃないなと気付いたんです」

 長らくデフラグビーの中に身を置いて、自分が分かっているようで実はそうではなかった。自分より聴力の低い選手の目線でチーム、そしてゲームを見ることの大切さを柴谷が学んだことで、コーチとしての成長に役立てている。これは聴覚障害者の中でのエピソードや学びだけではなく、実は一般のコーチと選手の間でも重要なテーマだ。

「誰でも自分の視点で物事を見るので、当然そうだろうと思っていたものが実はそうじゃなかったということが、環境や事情が変われば起こるのです。さっきの選手の一言で、ハッとしたんですね。彼らとずっと一緒にやってきたんですけれど、正確にはやはり彼らの視点に立っていなかった。でも、そういう現実を受け止め、これから取り入れていくためには、やはり想像しなきゃいけないですね。聴こえない中でラグビーをやるということは、こういうことなのかと。でも、選手がこの話をしてくれたことも、そういう話せる関係が出来ていたからだと僕は思っています。そんな関係を築けたことがよかったなと思っているのです」

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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