「目覚めると皆が口パクで…」 襲った異変、聴こえぬ音…“もう一つのラグビー日本代表”の挑戦
ラグビー日本代表が世界に挑むワールドカップまで2年。だが、来年、日本で世界一を目指す“もう一つの桜の戦士たち”がいる。通称「クワイエット・ジャパン」。聴覚障害を持つ選手による日本代表が、2026年秋に日本で開催される第3回「7人制デフラグビー世界大会」で初の世界一に挑戦する。ラグビーという競技自体の複雑さ、ボールを後ろに投げなければならないなど、言葉によるコミュニケーションも重要になるこの楕円球の格闘技に、なぜ彼らは惹かれ、多くの犠牲を払い、世界一を目指すのか。“静かなる勇者”たちの思いと、挑戦を聞いた。(前後編の前編、取材・文=吉田 宏)

聴覚障害を持つ選手による日本代表「クワイエット・ジャパン」の挑戦【前編】
ラグビー日本代表が世界に挑むワールドカップまで2年。だが、来年、日本で世界一を目指す“もう一つの桜の戦士たち”がいる。通称「クワイエット・ジャパン」。聴覚障害を持つ選手による日本代表が、2026年秋に日本で開催される第3回「7人制デフラグビー世界大会」で初の世界一に挑戦する。ラグビーという競技自体の複雑さ、ボールを後ろに投げなければならないなど、言葉によるコミュニケーションも重要になるこの楕円球の格闘技に、なぜ彼らは惹かれ、多くの犠牲を払い、世界一を目指すのか。“静かなる勇者”たちの思いと、挑戦を聞いた。(前後編の前編、取材・文=吉田 宏)
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企業チームのグラウンドを借りての都内での“代表合宿”。練習スタートを待つ選手たちには笑顔が溢れていた。ラグビーが出来る喜び、そして強い絆で結ばれてきた仲間たちとの再会に弾む心が、声にも滲む。
「23年の世界大会が終わってヘッドコーチ(HC)に就任しましたが、最初に選手たちにラグビーをやる意義として伝えたことがあります。自分が好きだからやるのは勿論ですけれど、それだけじゃなくて、敢えて非常に難しいことに挑戦することの価値を広く伝えて行こうと。来年の日本大会は、目標は勿論世界一になることですが、それを関係者全員で喜べるようなチームになりたいと考えています」
選手たちをまぶしそうに見つめる柴谷晋が、1年後に迫る大舞台への思いをこう語った。代表チームとしての本格的な活動は来年2月を待つ。取材した9月中旬の強化合宿は、正式な代表としての活動ではないため「クワイエットタイフーン」というクラブチームとしての活動になる。柴谷も自身の役職を「代表監督候補ですね」とおどけたが、ヘッドコーチ(HC)として、選手たちと共に世界一という目標へ走り始めている。
今年11月には、聴覚障害者によるオリンピック「東京2025デフリンピック」が開催される。1924年のパリ大会から100周年というメモリアルな大会だが、競技種目にラグビーはない。聴力による参加資格が異なるために、ラグビーは独自の規約に則った国際大会を開催しているのだ。
デフリンピックを主催する国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が定める選手の競技資格は、聴力が55デシベル(dB)以上。つまり55dB未満の音が聞こえない選手とされている。一方デフラグビーでは、特定非営利活動法人「日本聴覚障がい者ラグビー連盟(JDRFU)」による選手資格で、聴力レベルが両耳とも40dB以上と、デフリンピックよりも聴力がある選手の参加が許されている。この差は、他の競技以上に身体接触による危険性や複雑な組織プレー、そしてボールを後ろにしかパスできないというラグビーの性格上、聴覚、音声を使ったプレーも必要だからだ。
東京で開催されるデフリンピックには出場出来ないが、統括団体「ワールドデフラグビー(WDR)」理事会は、投票により翌26年に開催される世界大会開催国に日本を選んだ。有力候補だった強豪ウェールズを抑えての決定だった。日本大会は男女別で競技が行われ、詳細は未発表ながら前回大会のフォーマットでは男子8、女子4チームが出場している。現状では出場国が少ないため、予選はなく参加希望国に出場権が与えられている。
2001年からデフ代表としてプレーしてきた柴谷だが、選手としてのキャリアは大学卒業後からと比較的遅い。茨城・茗渓学園高から上智大ラグビー部とプレーした柴谷に異変が起きたのは、大学在学中のラグビー留学の時だった。
「大学で、ラグビーはここまででいいかな、別のことをやろうかと思っていたんです。でも、もう1回本格的にやりたいと思うようになった。なので、フランス語学科だったので飯田橋にある日仏会館(現東京・恵比寿)に行って『ラグビーで留学したい。強いチームはどこだ』と聞いたらトゥールーズだと。で、留学を決めたんです」
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