首にバーベル直撃、頸動脈損傷 「世界に復帰の前例なし」選手生命危機のトラウマから再び世界を走るまで【東京世界陸上】

残酷な医者の見通し それでも「一生走れないと想像するほど…」
手術を終えて目を覚ますと、医師から告げられたのはショッキングな事実。「5か月間は運動できない」。あまりに残酷な一言に言葉を失った。東京五輪の選考レースにも間に合わない。走り続けてきたハードラーにとって受け入れがたいものだった。
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「プロの世界に復帰できるかどうか確信が持てない時期もあった。不安なこともたくさんあったわ」
3月にリハビリを開始したものの、歩くのもやっとの状態。日常生活すら支障をきたし、競技引退の選択肢が頭をよぎってもおかしくない。だが、彼女の考えは違った。「一生走れないと想像するほど、復帰するモチベーションになる」
大好きな陸上をもう一度――。アスリートの魂が気持ちを奮い立たせた。
大事故から4か月。カーリは再びトラックに足を踏み入れた。同年6月、東京五輪の代表選考を兼ねた大会で58秒53の好タイムを記録。再び豪州代表に選出された。「走れること自体が特権だと思う」と当時の記憶を振り返る。
東京五輪は予選組5着で敗退。しかし、今回3年ぶりに帰ってきた国立競技場、当時は無観客だったスタジアムで大歓声を浴び、セミファイナルを駆けた。
「好きなことが出来ない時こそ、モチベーションを上げ、続けるしかない。『必ず良くなる』。いつも自分に言い聞かせているの。難しいことをしているんだから、辛い時もある。でも、とにかく続ければ良くなるわ」
大事故から復帰し、今もなお走り続ける不屈のハードラー。競技を続ける意思が燃え尽きるまでスタートラインに立ち続ける。
(THE ANSWER編集部・戸田 湧大 / Yudai Toda)
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