先天性難聴、「無音」の世界で… 18年ぶりの勲章、湯上剛輝が“聞こえぬ拍手”を求めた理由【東京世界陸上】

18年ぶりの勲章、諦めかけた世界への挑戦「何回も折れそうに」
デフアスリートを代表して、そして日本の男子円盤投げを代表して――。同種目で日本人が出場するのは2007年大阪大会の畑山茂雄さん以来、18年ぶり2度目の快挙だった。4月に64メートル48の日本新をマーク。参加標準記録の67メートル50には届かなかったが、開催国枠で日本陸連が定めた「ターゲットナンバー+10位以内の順位で日本人の最上位」という条件をクリアし、出場権を獲得した。
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「世界で戦えるかもしれない」と初めて意識したのは2018年の日本選手権。62メートル16をマークし、当時の日本記録を塗り替えた。しかしその後は伸び悩み、目指していた東京五輪にも届かず。「近いように感じた世界は、実際は本当に遠い」と落ち込んだ。痛感した現実とレベル差。「諦めようかな」とさえ考えた。
再び前を向かせてくれたのは、家族、友人、職場の人やコーチの存在。「何回も折れそうになったが、そのたびに立ち上がらせてくれた。言葉というよりも、ずっとそばで支えてくれることが僕にとっては凄い力だった」。7年かかって再び自己ベストを更新し、ついに世界陸上にたどり着いた。
「世界から遠いと言われていた円盤投げでこの舞台に立てたこと、応援に駆けつけてくれた家族や友人、先生、コーチと同じ空間を共有できたことが本当に幸せだった」
37人中37位。世界はまだまだ遠い。それでも、湯上の表情は晴れやかだった。「今年4月に日本記録を更新して、その時期に世界記録を出されたので、ちょっと近づいたと思ったらまた同じように離されたという感じ。それでも、前まで誰もできなかった場所に自分が到達できたんじゃないかと思っているので、成長しているのかな」。止まっていた時計の針がカチッと動く音がした。
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)
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