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先天性難聴、「無音」の世界で… 18年ぶりの勲章、湯上剛輝が“聞こえぬ拍手”を求めた理由【東京世界陸上】

陸上の世界選手権東京大会は13日から国立競技場で熱戦が繰り広げられている。2007年の大阪大会以来18年ぶり3回目の日本開催。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「東京に集いし超人たち」を届けていく。第9回は「世界に挑んだ日本のデフ(耳が聞こえない)アスリート」。男子円盤投げの湯上剛輝(トヨタ自動車)は生まれつき両耳に重度の聴覚障害を抱え、左耳に人工内耳を装着している。20日の予選は56メートル40で敗退したが、日本、そしてデフアスリートの代表として堂々たる投てきを見せた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)

左耳に人工内耳を装着している男子円盤投げの湯上剛輝【写真:中戸川知世】
左耳に人工内耳を装着している男子円盤投げの湯上剛輝【写真:中戸川知世】

東京世界陸上連載「東京に集いし超人たち」第9回

 陸上の世界選手権東京大会は13日から国立競技場で熱戦が繰り広げられている。2007年の大阪大会以来18年ぶり3回目の日本開催。現地で取材する「THE ANSWER」では、選手や競技の魅力を伝えるほか、新たな価値観を探る連載「東京に集いし超人たち」を届けていく。第9回は「世界に挑んだ日本のデフ(耳が聞こえない)アスリート」。男子円盤投げの湯上剛輝(トヨタ自動車)は生まれつき両耳に重度の聴覚障害を抱え、左耳に人工内耳を装着している。20日の予選は56メートル40で敗退したが、日本、そしてデフアスリートの代表として堂々たる投てきを見せた。(取材・文=THE ANSWER編集部・鉾久 真大)

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 声援は聞こえなくとも、ビリビリと肌から伝わってきた。

「本当に夢のような時間だった」

 日の丸を背負って立った国立競技場。最後の3投目を終えた時点で敗退が確定したが、湯上は清々しい笑顔で客席に感謝を示した。

 無音の世界。それが湯上にとっての日常だ。裸耳では至近距離でジェット機のエンジン音がしてもほとんど聞こえないレベルの先天性難聴。身体障害者手帳は聴覚障害で最重度の2級にあたる。左耳に装着した人工内耳のおかげで取材対応は難なくこなしている(ように記者には見える)が、競技の時は集音用の対外装置を外すため、歓声は全くと言っていいほど聞こえない。

 しかし、湯上は最後の投てき前に聞こえないはずの手拍子を求めた。「もう思いっきり楽しんでって気持ちがあった」。耳には届かない。だが、思いを乗せた振動は肌を震わせた。さらに目に入ったのがデフアスリート仲間らによる「サインエール」。11月に東京で開催されるデフリンピックに向けて開発された、目で世界を捉える人々の身体感覚と日本の手話言語をベースとした新たな応援の形だ。

「100人ぐらい、1区画だけだったが、凄く目立って見えて迫力があるなと思った。これがデフリンピックで見られるのかと思うとそれも楽しみ」。すでにデフリンピックでも代表入りが決まっている32歳は感慨深げだった。

「僕自身が競技をやることによって、聴覚障害のある子どもたちや人々、その親御さんたちに聴覚障害があっても活躍できるよ、大丈夫だよ、と示していけたらと思って活動している。もし今回の世界陸上で見てくださった皆さんがそう感じてくださるのなら、それ以上望むものはない」

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