「敵ではなく友達を作ろうよ」 世界新6m30を祈り、勝敗を超えた棒高跳びの友情、尊敬、矜持【東京世界陸上】
負けたくない気持ちと共存する「失敗してほしくない」という願い
競技自体のレベルを高めてくれるライバルに刺激を受けつつ、競争相手として複雑な思いもある。「もちろん打ち負かされた気持ちになるよ。俺は負けず嫌いなアスリートだ。メダルだってたくさん獲得してきた。でも、わずかな弱点も見つけられないんだ」。絶対的な強さを誇る王者に勝ちたい。でも、だからといって「彼に失敗してほしくない」という願いも抱いている。
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「このスポーツをやるようになって、友達を作ろうとしなければ生涯独りっきりだ」
待機時間が多い競技の特性上、自然と距離も近くなる。「彼らと命の取り合いをするより、一緒にご飯を食べたい。敵を作るんじゃなく、友達を作ろうよ。お喋りしようよ。見下したり、邪魔したりするんじゃなく、励まし合おうよ。これだけ生きていると、メダルよりも友達のほうが欲しいんだ」。ライバルであると同時に、高め合う友人。自分の表彰台が遠のこうと、祈るのは失敗ではなく成功だ。
熱弁したヘンドリクスが「これを書いてくれ」と報道陣に強調したのは、世界新記録における2位カラリスの貢献だ。自己ベストは先月出した6メートル8。この日は6メートル10で1度失敗した後、自己記録の更新よりも逆転の望みに懸け、6メートル15、6メートル20と失敗の度にバーを上げた。
ヘンドリクスは力を込める。「自己ベストを出せたかもしれない日を犠牲にして、アイツはゴールへとプッシュし続けた。モンドにプレッシャーをかけたんだ。これがアスリートってもんなんだ」。デュプランティス自身も、メダルセレモニー後にカラリスの肩を組みながら「彼がプッシュしてくれたのが助けになった。彼の存在が競技全体を向上させてくれている」と感謝した。
自分の限界に挑み続けるアスリート同士だからこそ、抱く多大なリスペクトの念。ライバルの成功を心から祝福する姿には、勝ち負けを超えたスポーツの美しさがあった。
(THE ANSWER編集部・鉾久 真大 / Masahiro Muku)
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