リーグワン覇権から3季遠ざかる名門 新HCは異色の経歴「ラグビーに魔法はない」託された復権への道――埼玉WK・金沢篤HC

ラグビーとどう向き合うかを問うロビー流「そこは意識しています」
この名将が選手に“考えること”を求めたのは、選手自身に「なぜラグビーをするのか」「将来的にどこに到達したいのか」という根源的なテーマを自発的に究明し、「そのために自分は何をしなくてはいけないのか」といった自答を導き出すことだった。コーチとして目の前の試合に勝つことは勿論重要だが、それ以上に選手が、そしてチームが、ラグビーとどう向き合っていくのかを問うことからチームを最強軍団へと導くのが“ロビー流”だった。その成果がクルセイダーズであり、ワイルドナイツだった。
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「そこは意識しています。もしかしたらロビーさんのやり方の方が時間がかかるかもしれないけれど、でも、そこに達したらすごく強い。ここまで見てきて、ラグビーというのはそういうスポーツだと思っていますから。でも同時に、自分のコーチングが確立している訳じゃなくて、本当に学びながらですね。教え方も人にもよりますし、もしかしたら時には答えを渡してあげた方がいい選手、場合もあるかもしれない。でも、そういう中で色々なエッセンスを貰いながら、自分の中でコーチングが常に変わってきていると感じています」
6シーズンに渡りディーンズ監督の下で学んだ金沢HCだが、名将からの学び以外にも、このチームで指導することの魅力に踏み込んでいる。
「自分のコーチングをしたいという一番の欲望は、常に何か新しい人とか、誰と仕事をするかということなんです。それは別にロビーさんのような自分のボスだけじゃない。例えば今回FW、BKコーチに就いてくれた堀江翔太やバンジー(ベリック・バーンズ、オーストラリア代表、共に元埼玉WK)らと仕事を出来るのも楽しみですね」
堀江やバーンズが代表のスター選手だったのとは対照的に、新HCの現役時代は脚光を浴びる存在ではなかった。
「慶應でラグビーがやりたい」
そんな思いで、中学1年から伝統のタイガージャージーで楕円球を追いかけてきた。大学時代はSOでプレー。注目校で主力選手として活躍はしたが、卒業後の進路は社会人チームや代表への挑戦ではなく住友銀行(現三井住友銀行)へ。トップ選手としてのキャリアに終止符を打ち、ラグビーはOBコーチとしての週末という生活を選んだ。しかし入行6年目に大きな決断をする。プロコーチを目指して慶大大学院スポーツマネジメント研究科に進学。現役時代に指導を受けた林雅人監督の下でアシスタントを務め、NTTコムで初めてのプロとしてのキャリアをスタートすると、1年のオーストラリア留学を経て母校HCに就いた。
慶大HC時代は、入試難による部員獲得に腐心しながらも関東大学対抗戦で4位、4位、2位、3位と優勝争いに食い込みながら、あと1歩及ばないシーズンが続いた。大学選手権でも就任2シーズン目から3年連続で準々決勝敗退に終わったが、天理大に24-29、大東文化大に28-33、早稲田大に19-20と接戦を演じて鮮烈な印象を残した。取材を続ける中で、「あと1、2シーズン強化を継続すれば」という慶大完全復活への期待感もあったが、若き指導者は伝統校での肩書きや安定よりも自分自身の成長を求めた。
埼玉WKの新たなコーチング体制は、ディーンズ氏がエグゼクティブアドバイザーへと退き、6季アシスタント(BKコーチ)を務めた金沢がHCに昇格した以外は、従来のコーチ陣が残る。トップの交代以外、原則は現行体制を継続させて、そこに、昨季アンバサダーだった堀江、バーンズという選手として高い経験値を持つ人材が加わり新HCを支える。チームの基本的なスタイルは継承しながら、コーチングエリアでは自分とは異なる経験やバックグラウンドを持ったコーチ陣のミクスチャーで、新たな融合を目指す。
チームOBもコーチ陣に加わる中で、生え抜きではない金沢を現場のトップに据えた埼玉WKだが、“ポスト・ロビー”については数年ではなく10年を超えるようなシナリオの中で思い描き、組み上げられたものでもある。
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