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リーグワン覇権から3季遠ざかる名門 新HCは異色の経歴「ラグビーに魔法はない」託された復権への道――埼玉WK・金沢篤HC

ラグビー・リーグワンの埼玉パナソニックワイルドナイツは、8月1日に金沢篤BKコーチのヘッドコーチ(HC)昇格を発表した。前任のロビー・ディーンズ監督(現エグゼクティブアドバイザー)は、ニュージーランド(NZ)の名門クルセイダーズ(カンタベリー)を最強チームへと鍛え、埼玉WKでも11季の任期で5度のタイトルを手にしている。名将からバトンを受けた新HCは、母校慶應義塾大で2015-18年シーズン指揮を執り、新たな学びを求めてディーンズ監督の下でコーチングを6シーズン学んできた異色の経歴を持つ。毎シーズン優勝候補筆頭に挙げられながら3季覇権から遠ざかる名門を、どう再び頂点へ導くのか。最強チームの王座奪還への思いを聞いた。(取材・文=吉田 宏)

リーグワン昨季プレーオフ3位決定戦に出場したワイルドナイツの選手たち【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
リーグワン昨季プレーオフ3位決定戦に出場したワイルドナイツの選手たち【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

埼玉ワイルドナイツ王座奪回へ、BKコーチから昇格した金沢篤HCの思い

 ラグビー・リーグワンの埼玉パナソニックワイルドナイツは、8月1日に金沢篤BKコーチのヘッドコーチ(HC)昇格を発表した。前任のロビー・ディーンズ監督(現エグゼクティブアドバイザー)は、ニュージーランド(NZ)の名門クルセイダーズ(カンタベリー)を最強チームへと鍛え、埼玉WKでも11季の任期で5度のタイトルを手にしている。名将からバトンを受けた新HCは、母校慶應義塾大で2015-18年シーズン指揮を執り、新たな学びを求めてディーンズ監督の下でコーチングを6シーズン学んできた異色の経歴を持つ。毎シーズン優勝候補筆頭に挙げられながら3季覇権から遠ざかる名門を、どう再び頂点へ導くのか。最強チームの王座奪還への思いを聞いた。(取材・文=吉田 宏)

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 新体制が動き出した8月25日のチーム始動日。堀江翔太FWコーチが受け持った居残り練習が終わるまで、新HCはグラウンドに立ち続けた。

「これまでのBKコーチから、フィールドの上では役割がそんなに大きく変わることはないと思う。楽しみという気持ちが一番ありますね」

 家族の暮らす千葉・浦安市へ戻るのは週末のみ。いわば単身赴任の身だが、日焼けた横顔は慶應ボーイではなくすでに北関東の住人のものだ。「月曜から土曜までこっち(熊谷)です。土曜日の試合が終わって帰宅して、日曜の夜にはまた熊谷という生活が6年続いてきた。(HC就任で)もう週末もどうなるかわからない」と苦笑したが、長らく“リーグ最強”と呼ばれ続けてきたチームのトップに立つことの重みも受け止めている。

「当然、チームには歴史がありますし、ロビーさんが培ってきた、いい成績があるので、責任の重みは感じていますが、自分ではそれは楽しんでやるしかないなと思っています。HCに替わったからといって、ワイルドナイツのラグビーを変えようとか、何か自分の色を出そうみたいなことはないですね。いい選手もいるし、いいコーチもずっといてやってきたので、それを尊重しながら、成績としてはさらに一歩進めるように関わっていくという感じですね」

 トップリーグ優勝5度、リーグワン初年度王者など、数多の栄光を掴んできたチームへの加入は異例の決断だった。金沢HCの指導者としてのバックグラウンドは、慶大、NTTコミュニケーションズ(現浦安D-Rocks)で指揮を執った林雅人氏のアシスタント、そして林氏とも親交の深いエディー・ジョーンズ現日本代表HCからの学びだった。だが、母校のHCを辞してから選んだのは、自身の経歴や足跡とは接点のなかったクルセイダーズをスーパーラグビーで5度の優勝に導いたロビー・ディーンズの下で、新たなコーチとしてのスキルを身に付けることだった。

「ロビーさんからは様々なものを学びましたが、一番は、いかに答えを与えずに選手から何かを引き出すかということです。自分自身のコーチングを受けた原点というのは、質問したらコーチからパッと答えが貰えるというものでした。たぶん僕の世代なら、最初は誰でもそうだと思います。その時は何も教わっていなかったところから教えて貰っていたわけですけど、そこから次のステップは、貰うのではなく、教わる側から引き出すということ。それがロビーさんから学んだことです」

 取材する側としては、10年以上前に世界有数のコーチが来ると、ワイルドナイツが招いたディーンズ氏に話を聞くために何度も当時の拠点だった群馬・太田市を訪ねた。名将と身構えて会ったディーンズ氏は、予想に反して飾らない、三洋電機製(当時)のマッサージチェアをこよなく愛する気さくな人物だったが、それ以上の予想外だったのは「まるで禅問答」のような受け答えだった。だが、そこにディーンズ氏を名将たらしめた資質があった。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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