リーグワン連覇後押し、異色ポスト「CC」の証言 低迷期を越え…東芝ブレイブルーパス東京はなぜ勝てたのか
森田CCの語りに浮かび上がる“ルーパスラグビー”の真髄
この決勝へ向けた森田CCの語りの中に、“ルーパスラグビー”の真髄が浮かび上がる。
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「僕らはボールを動かしていきますが、急いでプレーするから動かせる訳じゃないのです。シャノン(フリゼル=FL)やワーナー(ディアンズ=LO)は勿論サイズは大きいですけれど、多くの選手、例えば杉山(優平=SH)、リッチー(モウンガ=SO)もそうですが、眞野(泰地=CTB)、松永(拓朗=FB/SO)らも身長170cmちょっとです。常翔学園高(大阪の名門ラグビー部)のほうが大きいかも知れない(苦笑)。でも、その選手の中で、いかにスピードを生んでいくかに取り組んできた。スピードを生むにはコンタクトに勝っていかないといけないですからね。でも、コンタクトに勝つには、なにも誰かが誰かに対して思い切り当たってパワーで勝る必要はないのです。僕たちがボールを動かして、(グラウンドの)幅を使うことによって相手の脅威になる。これは、選手がそこにいるだけじゃ意味がなくて、ボールを動かすためのスキルセットとアライメント(選手配列の整合性)が必要なんです。そういったポジション毎の勝負に勝っていければスピードが生まれてくるので、ボールが動いてくるし、相手ディフェンスも崩れていく。そうなると、守る側は1人の選手へまともにタックル出来なくなるのです。そうすれば常翔学園でも南アフリカにコンタクトで勝っていける。なので、いかに人が脅威となって、皆が共同して脅威となっていくかというところを1週間準備して、試合でもボールを動かした。それが決勝のゲームでした」
個々のサイズやパワーに、組織が機能し連続したスピードで対抗する――。これがBL東京の真骨頂だが、チーム愛称のLupusにも繋がっている。ラテン語で狼を意味する言葉だが、チーム内で愛称を考えた時に、狼のように“群れ”で相手に襲い掛かり、倒すという意味合いを込めた。その思想が「個」ではなく「組」で戦う、いまのチームにも受け継がれている。リーグワン初の2連覇を果たしたことは賞賛に値するが、結果以上に自分たちのスタイルにこだわり、それを貫き通して頂点に立てたことが、BL東京の優勝をさらに価値のあるものに高めている。
勝負を決めたワンプレーを挙げるとすれば、個人的には後半27分の自陣ゴール前ラインアウト防御からのHO橋本大吾のジャッカルを挙げたい。FLリーチの地を這うようなタックルから、LOジェイコブ・ピアースと争うように橋本がボールに絡んだプレーは、まさに狼が集団で獲物に襲い掛かるようだった。残り時間、点差を見れば十分逆転は可能だったが、相手が反撃の狼煙を上げようと自信を持つ敵陣ゴール前からのFW戦を寸断した集中力、ゲームの肝を理解した賢さが光ったプレーでもあった。
その一方で80分間を通して感じたのは、ゲームのクオリティー自体はBL東京のワンサイドゲームだったということだ。スコアがセフティーリードにならなかったのはS東京ベイの“地肩”の強さがあったからだ。共に死力を尽くした80分間だったのは間違いない一方で、BL東京が自分たちのスタイルでゲームを進めたのに対して、S東京ベイに彼らのプレーを充分にはさせない時間が続いた。その印象を森田CCに伝えると、こんな言葉が返って来た。
「はい。評価とすれば、決勝戦はいいプレーが出来ていたと思います。確かにスコアだけなら18-13と大きな差はないですよね。でも、実際にあと一歩のところでフィニッシュ出来れば、どこかでポンポンと(スコアを)獲れたシーンは幾つかあったと思います。それが獲り切れなかったのは、クボタさんのディフェンスの粘りと、ずっとプレッシャーを掛け続けられたためだと思います。で、何が良かったかというと、決勝のプレッシャーの中で、5万1000人の観衆の中で、本当に最後の負けたら終わりだという試合の中で、もちろん相手からの強烈なプレッシャーもあるわけですけれど、僕たちは静岡BR戦の時のように消極的にプレーしなかったことです。スキルセットを使う、スペースを探し続ける、いくつかのギリギリでのプレー、例えばPR木村星南やHO原田衛のパスですね。本当に究極のプレッシャーと誇りを持っている(S東京ベイの選手たちの)中に、スピードを持って突進していく。ただ突進するだけじゃなくて、最後までスペースを探していく。あのプレッシャーの中でパスをしてボールを手離すことはミスをするリスクもある。ただ持って走ることの方が簡単です。けれども、最後まで自分たちはボールを動かすんだという判断をし続けた。あのプレッシャーの中で、それを80分間出来たことは本当に評価するべきだと思います」
森田CCの言葉を長く引用したが、このコメントから浮かび上がるのは、ラグビーで勝つためには、技術や戦術というベースがある上に、時間をかけて構築していった自分たちのラグビーを、80分間貫こうとする信念がいかに大切かとうことだ。勿論この信念の大半は戦術という領域で体現されるものだが、自分たちの理想とするスタイルで、15人の選手が80分間戦い抜くためには、強力な精神力が欠かせなかったのは間違いないだろうし、選手がそれを信じて戦い続けられたのは、スタイル自体に正当性があったからだろう。
ここまでは、BL東京が今季いかに戦ってきたかを軸に話を聞いてきたが、ではこの若きCCが何故コーチ、コーディネーターとしての道を歩み始めたのか。後編では、ジャージーを脱いでからの6シーズンで森田CCが培ってきたもの、指導者としてのバックグラウンドと拘りを聞く。
(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)
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