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「下に見られたもんだな」記者は舌打ち 格上ウェールズ撃破、若き日本を燃え滾らせた36歳闘将リーチマイケルの献身

リーチに勇気づけられたように若いメンバーが真紅のジャージーに突き刺さった

「今週の初めからディフェンスの大事さを言い続け、自分たちの中で(防御に)アイデンティティーを創ろうと話をしてきた。とにかく前に出てダブルタックル。それを意識してやってきたので、その成果はすこし出たのかなと思います。来週はもっと前に出て、もっと圧力を掛けて、プレッシャーを掛け続けたい」

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 会見でリーチは防御についてこう語ったが、言葉以上にピッチの上で80分間発散した愚直なタックル、ひたむきに繰り返した集散と、リーチの姿に勇気づけられたかのように若いメンバー全員が真紅のジャージーに突き刺さった。

 真骨頂は前半36分。日本陣でウェールズが仕掛けた14次攻撃を、初キャップのPR紙森陽太(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、HO原田、竹内柊平(前浦安D-Rocks)のフロントロー、LOエピネリ・ウルイヴァイティ(三菱重工相模原ダイナボアーズ)、WTB石田吉平(横浜キヤノンイーグルス)、李承信(コベルコ神戸スティーラーズ)らが、一発で倒せなくてもしぶとくまとわりつくようなタックルを浴びせ続けて有効な突破を許さない。最後は、相手SOサム・コステロウが根負けしたかのようにドロップゴールを外してスコアをさせなかった。個々のタックルのスキルも進化を感じさせたが、同時に密集に入るのか、次の防御に備えるかを見極める冷静な判断力も堅守を支えた。

 後半開始4分にもゴールを背負っての8次攻撃を封じ続けた。最後は日本の反則で、ウェールズのラインアウトになったが、スローイングミスで再び窮地を凌いだ。この日はウェールズが好機をスコアに繋げられない遂行力の低さも敗因の一つだったが、これも日本の防御面での奮闘が効いていたのは間違いない。

 過去のコラムでも紹介したように、エディーは合宿の中で「エフォート」というワードを使っている。「ゴールドエフォート」は1つのプレーをした後に、足を止めることなく次のプレーに動くこと、「レッド――」はそこで立ち止まってしまったこと。練習やミーティングではゲーム感覚でこの言葉が使われても、1日1日の繰り返しで、若い選手たちは1歩でも早く、足を止めずにタックルから次のタックルへ、ブレークダウンから次の接点へ、献身さと、その動きに必要なフィットネスを身に付け、小倉での勝利を掴んだ。現代ラグビーでは考えられない、PRで80分間フルタイムプレーを続け、この試合で出場選手中5位の12タックルをマークした竹内は、自分たちのエフォートに分厚い胸を張った。

「もちろんキツいですよ。キツいけれどそれが日本代表らしいというか、エディーさんはよく『日本代表らしく戦え』と言うんですが、日本が楽にやっても勝てないと思うんです。そうじゃなくて僕らは相手よりもキツいことをして、めっちゃキツい時でも相手のほうがキツいよねというのが日本代表だと思っています。そこで走り勝つのが日本代表なんです。だから、今日は本当にキツかったです。でも、日本代表らしかったなと思っています。前日練習で(暑さに)ちょっと焦りましたけど、条件は相手も一緒なので僕たちだけが暑いわけじゃない。宮崎(合宿)でずっと試合よりもキツい練習をやってきたので、それ(効果)が出た結果だと思っています」

 最後までタックルし続けた“ご褒美”は全員が享受するべきだが、厳しい競り合いの中でチームを牽引したリーチの奮闘はフルタイム続く。19分の中盤でのウェールズ左オープンに真っ先にタックルで飛び込むと、1分後のスクラムから崩れたラックに参加すると休むことなく立ち上がり、ウェールズの次のアタックを察知してオープンサイドへとカバーに走り込んでいる。この、次のプレーを相手がどう仕掛けてくるかを読む能力が、昨季の新生ジャパンとティア1、一部ティア2国との格差の一因でもあったが、リーチには備わっている。この展開を読む能力と経験値をピッチに立つメンバー15人の中で何人が身に付けるかも、これから日本が世界と伍していくためには重要なファクターになる。

 東海大学在学中に日本代表入りしたリーチだが、当初はBK級のスピードが武器の攻撃的バックローとして鳴らした。それが4度のW杯を経験して、30歳を超えてからは、その運動量をディフェンス、献身的なブレークダウンでのフィジカルバトルで生かす仕事人に変貌している。昨季リーグワンでも296回の最多タックル成功をマークして、チームを連覇に牽引。そのタックル職人、ハードワーカーとしての実績が、日本代表の起死回生の“金星”にも効果を発揮した。ウェールズ戦での個人スタッツを見ても、タックル回数21、成功回数19はともに両チームトップの数値を叩き出す。勝利を告げるノーサイドの笛が鳴ると、多くのメンバーが抱き合い、ガッツポーズをする中で、仰向けに倒れたまま両腕を天空に突き上げた姿が、この闘将が80分間見せ続けたエフォートを物語っていた。

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吉田 宏

サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。ラグビーW杯は1999、2003、07、11、15、19、23年と7大会連続で取材。

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