「競技を辞める方が怖かった」― 皆川賢太郎が貫いた“ずるい選択”をしない生き方
ビジネスに生きる、スポーツ選手の“待つ時間”の耐性
「だいたいは小学生くらいから競技を始め、上手い選手はプロになったり、金メダルを獲ったりする。結果を出すまでに時間がかかるということ。その過程では、周りからいろんな意見を言われる。例えば、僕は背が小さかったので『背が低い人はアルペンレーサーなんかなれない』と言われる。子供ながらに夢を持っているのに。
でも、スポーツ選手はそういうのを乗り越えて成長してきた人ばかり。だから“待つ時間”が得意になる。芽が出るまでに誰かに否定されたとしても『自分はできる』と思って、自分自身を待ち続けることができる。スポーツは待たないと絶対的に成果につながらない。そういうものをスポーツ選手は学んできていると思います」
ビジネスにおいても即効性がないのは一緒。こうすれば、結果が出るという絶対的な正解はない。成功するまでトライし続けられるスポーツ選手の強さ。それは今、経営者としてのポリシーはもちろん、スキー産業を発展させたいと意欲を燃やす情熱に結びついている。
「周りの人が辞めると言っても自分は辞めないところがある。スキーも同じでした。ライバルで辞めていった選手は、勝つことが難しいと思ってしまったり、世界で活躍するのは簡単じゃないと思ったり、そういうことが頭で分かってしまうと辞める理由がどんどんできてしまう。僕は辞める必要がなかったというか。
例えば、スキー連盟を立て直したい、スキー産業をどうにかしたいと言っても『今の段階で、それは難しいんじゃない』と言われる。でも『ああ、そうだ。昔もこういう会話を聞いた。皆さんに一緒にやってくれとも言ってないので全然いいです』という感じ。自分自身がやることは変わらない。待つことが大事です」
今や11店舗にまで拡大した実業家となった。スポーツとビジネス、人を育てる部分で共通する部分はあるのか。「今も正解には辿り着いていないけど」と前置きした上で持論を語る。
「基本的には自由度を現場に与えない限り、人は育たない。僕は細かいタイプなので、フォーマットは細かく決めているけど、予算の執行に対するバッファー(余裕)は、彼らに自由度を与えないとつまらなくなるので一番注意しています。すべて上で決めて意思決定すれば、うまく物事は回るけど、下に発展性も学びもない。
トライ&エラーが重要。失敗しない人間はいないので、失敗を数多く経験してもらいたい。バッファーがない限りは失敗できないので、失敗を想定したバッファーを持っておくことが重要だと考えます」